鬱金の間 チーム解散の危機(前)


マイスラがくっついて氷火封印した話の続きです



【注意】
・キャラ崩壊
・オルグァン回
・原作と大幅に異なる展開
・アヴィカガ要素あり(捏造)
http://nanos.jp/hayou/novel/2/9/
詳しくはこの辺を

・ガンディア若国王(オリキャラ)→スラヴィ要素あり(捏造)
http://nanos.jp/hayou/novel/3/21/
詳しくはこの辺を

・スラヴィが首と頭をマッサージしてあげてます
(首と頭です)


・以上が許せる方のみどうぞ






【オルグァンの部屋】

(それは、幼い頃の記憶)
(住んでいた村が魔性の蹂躙を受けた時の記憶)
(命からがら逃げだすちびオル)

(背後から無数の触手)
(捕まりそうになる)
(泣きながら助けを求めるちびオル)
(その時はまだ出会っていないはずの二人の名前を呼ぶ)
(両脇に二人が現れる)
(ナイフで触手を切り裂く青年)
(刀を触手に突き立てる女性)
(逃げろ、という彼らに頷き、走り出すちびオル)
(背後で悲鳴)
(振り返ると、二人の体は触手に飲み込まれていた)

(絶叫)
(跳ね起きる)
(寝室、ベッドの上)

オルグァン「……夢、か」

(冷や汗をかいて息をつく)
(枕元にある氷結漸)
(安心したように微笑み、また布団をかぶるオルグァン)



【食堂】

マイダード「はあ……」
オルグァン「どうした、盛大にため息ついて」
マイダード「別に」
オルグァン「どうせスラヴィ絡みだろう」
マイダード「……」
オルグァン「また痴話喧嘩か。懲りないなお前らも」
マイダード「喧嘩はしてない。ちゃんとうまくやってるよ……ただ」
オルグァン「ただ?」
マイダード「夜のお呼びがかからない……」
オルグァン「死ね」
マイダード「!?」
オルグァン「いや、すまん。つい本音が」
マイダード「本音っておい……。旦那、なんだか最近苛ついてないか?」
オルグァン「気のせいだ。そんなことは全くない」
マイダード「そうかあ?眉間に皺が寄ってるぞ」
オルグァン「気のせいだと言っている。お呼びを待たずとも、お前から誘えばいいだろう」
マイダード「あんまりガツガツしてると思われるのも嫌なんだよ。せっかく長年の思いが実ったんだから、大切にしたいし」
オルグァン「なら我慢しろ。下らん」
マイダード「あ、やっぱり苛ついてる。ひょっとして欲求不満?」
オルグァン「それはお前だろう……(首を絞める)」
マイダード「痛い痛い痛い!暴力反対!」
マイダード「って、冗談はさておき、悩みがあるなら相談に乗るぞ。旦那には、日頃から色々お世話になってるし」
オルグァン「……」
マイダード「女絡み……は、ないか。仕事のことなら、おれには破妖刀のことはわからないから、スラヴィにでも」
オルグァン「他人の女に弱音を吐く趣味はない」
マイダード「じゃあ旦那も恋人作れば?絶対もてるだろ」
オルグァン「さあな……」
マイダード「またまたー。おれたちもういい年なんだから、ちゃんと将来のことも考えないと」
オルグァン「将来……か」
マイダード「そう。旦那はどんな女が好みなんだ?やっぱり、スラヴィみたいな元気系?」
オルグァン「出来れば破妖剣士でない方がいい。職種が同じだと衝突しそうだ」
マイダード「ふうん、そんなもんか」
オルグァン「髪は長い方がいい。色白で、美人というよりは可愛らしい感じの……だがあまり小柄だと釣り合いが取れんから、背丈はそれなりにあった方がいいな。性格は温厚で、少し内気なところがあるとなお良い」
マイダード「なんだ、おれのことじゃないか(笑)」
オルグァン「………」
マイダード「痛い痛い痛い!無言で首絞めるのやめて!」



【ひと月前】

アーヴィヌス「しばらくは後輩の指導に当たって欲しい」
オルグァン「それは、どういう……」
アーヴィヌス「そのままの意味だ。あの二人だけでは心許ないから年長のお前をつけたが、もう必要あるまい」
オルグァン「……」
アーヴィヌス「連中も、いつまでもお前に気を遣っていては、次の世代に命を繋げられんだろう」
オルグァン「ご存知でしたか」
アーヴィヌス「噂は嫌でも耳に入る」
オルグァン「なるほど。噂好きの女性とお付き合いされているという噂は、間違いないようだ」
アーヴィヌス「……と、とにかくお前もこれで肩の荷が下りるだろう。二人には私から改めて伝える」
オルグァン「はい」


(パタン)


スラヴィ『オルグァン、このパンお腹いっぱいで食べられないから、もらってくれない?』
マイダード『それならおれが』
スラヴィ『だーめ。オルグァンにあげたいの』
マイダード『なんで』
スラヴィ『今日はオルグァンの誕生日でしょ?』
マイダード『あ、そうか。おめでとう、また一つ爺さんになったな』
スラヴィ『もう、どうしてあなたはそうなの!?そんなだから親友がいないのよ』
オルグァン『誕生祝いの品をそれで済ます気か……?』
スラヴィ『ちゃんと別に用意してあるって』
マイダード『おれは何もないな。女ってそういうの好きだなあ、祝い事とか記念日とか』
スラヴィ『じゃあマイダードの誕生日にも、今年から何もあげない』
マイダード『なんでだよ!男同士では贈らないけど、男と女じゃ違うだろ!』
オルグァン『お前ら、人をダシにしていちゃつきたいだけなら他所でやれ』

オルグァン「………」

(天井を仰ぎ、ため息をつくオルグァン)



【廊下】

マイダード「おー、いた。旦那のやつ、ほとんど本気で絞めるんだもんなあ……」
マイダード「一瞬お花畑が見えた(ケホコホ)」

(壁に片手をつきながら、よろよろ歩く)
(少し涙目)

スラヴィ「マイダード、どうしたの?」
マイダード「あ」

(書類の束を抱えて立っているスラヴィ)
(心配そうな顔)

スラヴィ「ひょっとして、具合悪いの?大丈夫……?」
マイダード「なんでもない、平気平気」
スラヴィ「泣いてるじゃない。誰かに苛められたの?」
マイダード「餓鬼の頃じゃないんだから、大丈夫だって。旦那とじゃれ合って首絞められただけ……あとは、寝不足かな(スラヴィが相手してくれないから)」
スラヴィ「……ちょっと、こっち来て」
マイダード「え?」



【スラヴィの部屋】

スラヴィ「………」
マイダード「………」
スラヴィ「………どう?」
マイダード「………」
スラヴィ「痛かったら言って。わたし握力強いから………」
マイダード「………」
スラヴィ「はい、終わり。えーと、拭くものは……」

マイダード「スラヴィ」
スラヴィ「なに、痛かった?(布で手を拭きながら)」
マイダード「どういう心境の変化なんだ……?」
スラヴィ「うーん、弱ってるマイダード見てたら、ついムラムラと……」

(居住まいを正すマイダード)

マイダード「そっちじゃなくて、あの世話焼き姉さんたちのことだよ」
スラヴィ「サティンたちが何か?」
マイダード「あの女だけじゃない。ラエスリールの取り巻き連中と、近頃随分と親しくしてるみたいだな」
スラヴィ「話しかけてくれば、無視するわけにもいかないでしょ」
マイダード「急にどうしたんだよ。お前だっておれ同様、あいつらのことは嫌ってたはずじゃないのか?」
スラヴィ「紅蓮姫奪還まではね。もうその仕事は片付いたじゃない」
マイダード「だから水に流せって?連中は、一言でも謝ったか?」
スラヴィ「……特には」
マイダード「だろうな。悪いが、サティンと話してるのを聞いたんだ。なんで、お前が謝らないといけないんだか……」
スラヴィ「あれは……その場の流れというか」
マイダード「スラヴィがそれで良くても、おれは納得いかない」
スラヴィ「心配してくれるのは嬉しいけど、少しは堪えてよ。世界が大変な時に、人間同士で揉めてる場合じゃないでしょう」
マイダード「もし、ラエスリールが浮城に戻ってきたらどうする?」
スラヴィ「……」
マイダード「少なくとも、連中はそれを望んでる。そうなったら、またおれたちは……」
スラヴィ「死地にでも送り込まれて一巻の終わり、って?(苦笑)」
マイダード「カーガスやシャーティンがどんな目に遭ったか、忘れたわけじゃないだろう」
スラヴィ「ラエスリールに少しでも苦言を呈する人間がどんな目に遭うか、ね……」
マイダード「おれはあの白い坊やに威嚇される程度で済んだけどな、スラヴィに何かあってからじゃ遅い」
スラヴィ「仲良くしておけば、殺される心配はないと思うの。マイダードはわたしが守るわ」
マイダード「……?」

(マイダード『たち』と言わないのを不自然に思うマイダード)
(彼女の性格上、仲間であるオルグァンを数に入れないことは考えられない)

マイダード「ターラちゃんは、もうチームを抜けてるから除外として……旦那はいいのか?」
スラヴィ「え……マイダード、聞いてないの?」
マイダード「何を」
スラヴィ「オルグァン、もうわたしたちとは組まないって」



【オルグァンの部屋】

(また昔の夢)
(目の前には、妖しく微笑む魔性の女)
(怯えて後ずさるちびオル)


女『生きたいかい?』
ちびオル(………)
女『なら、助けてやろう。ただし、私のことは一切誰にも話さないことだ』
女『もし誓いを破ったら、その瞬間にでもお前の全身は引き裂かれるだろう』

女『いいね、約束だよ。私の名は……』


破妖剣士『お前だけの問題ではないのだぞ。近隣の村の幾つかが、魔性による被害を受けている』
捕縛師『本当に何も知らないのか?』
ちびオル『……はい』

(話すわけにはいかない)
(せっかく助かった命)
(死にたくない)

破妖剣士『氷結漸がお前を選んだ。新たな使い手はお前だ』
オルグァン『……はい』

(口数は少なく、控えめに)
(黙して語らず)
(どんなはずみで口を滑らせるか知れない)
(あの女はいつでもおれを監視している)

浮城の女『前からいいなと思ってたの。無口で渋くって』
オルグァン『悪いが……』

(巻き込めない)
(いつまで生かしておいてもらえるかもわからないのに)

浮城の女『せっかく声をかけてあげたのに、何よあれは』
浮城の女『つまらない男』
浮城の女『冗談の一つも言えないなんてね』

(女ってのはどいつもこいつも)


スラヴィ『わたしスラヴィエーラって言うの。スラヴィって呼んで!』
オルグァン『………』
スラヴィ『背が高いのねー。うわ、すごい筋肉。触っていい?』
オルグァン『………』
スラヴィ『気に障った?』
オルグァン『いや……』
スラヴィ『本当、羨ましい限りだわ。鍛えれば、わたしもこのくらい筋肉つくかしら』
オルグァン『それはあまり見たくないな』
スラヴィ『(笑)』
オルグァン『(笑)』

スラヴィ『これ、マイダード。わたしの幼馴染みなの』
マイダード『これって何だよ、これって』
オルグァン『よろしく』
マイダード『おれより背が高いなー。おまけにすごい筋肉だ。頼まれても触りたくない』
オルグァン(こいつら……)


(コンコンコン)
(部屋の扉が三回ノックされる)
(音で目を覚ますオルグァン)

(コンコンコン、ともう一度鳴る)
(だ・ん・な)
(ゆえにマイダードだと察するが、起きようとしないオルグァン)
(再び布団を頭までかぶり、聞こえないふり)
(寝たのかな?と間抜けな声)
(あきらめて去っていく足音)


(目を開けたまま、物思いにふけるオルグァン)



【マンスラムの部屋】

マンスラム「あなたと話すのは久しぶりね。また綺麗になったんじゃない?」
スラヴィ「お世辞はいいので、本題をお願いします」
マンスラム「相変わらずはっきりしているわね。実は、ガンディアの若国王とのことだけど……」
スラヴィ「その件なら、とっくの昔にお断りしましたけど」
マンスラム「ええ、聞いているわ」
スラヴィ「わたしは、人々を苦しめる魔性とマイダードを守って生きていきたいんです。王妃になんてなる気はさらさらありません」
マンスラム「……その言い方だと、マイダードが人々を苦しめているようにも聞こえるわよ」
スラヴィ「まだしつこく何か言ってきているんですか?仕事以外の苦情でしたら、城長さまのところで止めていただかないと」
マンスラム「私もちゃんと断ったのよ。あなたにはお付き合いしている男性がいるからって。先方もそれは承知でしょう、ガンディアで顔を合わせているのだから」
スラヴィ「では、なぜ今頃になって?」
マンスラム「彼はこう言ったの。『死んだ男のことをいつまでも引きずっていても仕方ないでしょう』と」
スラヴィ「……は?」
マンスラム「あなたは、これをどう見る?」
スラヴィ「確かにわたしたち、あれから死んでもおかしくないような修羅場を幾つもくぐってきましたけど……マイダード、ちゃんと生きてますよ?」
マンスラム「ええ、そうね。浮城にいるわたしたちは、それを知っている。でもガンディアの方々は違った」
スラヴィ「と言うと……」

(ガンディアからの文を見せるマンスラム)
(全てスラヴィ宛て)
(若国王からの熱のこもった恋文)
(ミランスからの励ましの手紙)
(『殉死した』マイダードを悼む内容)

スラヴィ「なんですか、これ……」
マンスラム「最初は、あなたに焦がれるあまり気が触れてらっしゃるのかと思ったのだけれど」
スラヴィ「マンスラム様も言いますね」
マンスラム「ミランス王太后までも調子を合わせているとは、さすがに考えにくいわ。やはり、記憶の改竄が行われている……と考えるべきね」
スラヴィ「誰が、何のために?まさか、氷火が……」
マンスラム「いいえ、彼を封印したのはだいぶ前でしょう。彼はガンディアには関心がなかったはず」
スラヴィ「でも、だったらどうしてマイダード一人だけ……」
マンスラム「それを確かめるためにも、あなたにはもう一度ガンディアに行って欲しいのよ」
スラヴィ「また口説かれにですか……(うんざり)」
マンスラム「まさか一国の王に向かって、『あなたは魔性の干渉を受けています』なんて言えないでしょう」
スラヴィ「言ってもいいと思いますけど。シュライン姫の件で耐性はついてるでしょうし、紅蓮姫奪還の際には、ガンディアには散々苦労させられましたし、今更気を遣って差し上げる理由も……」
マンスラム「あなたの大切なマイダードに関係していることなのよ。もっと慎重に考えるべきではないかしら」
スラヴィ「マイダードを連れて行って引き合わせれば一発解決では?」
マンスラム「それで記憶が戻るとは限らないし、存在しないことになっている男性は、ガンディアに入国できないわ」
スラヴィ「……」

マンスラム「出立は三日後とします。よろしくね」




(続く)


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