鬱金の間 マイオルの氷火滅消作戦(前)


【注意】
・氷火、ラスに心臓一個分の命取られる(返してもらってない)
・マイオルがスラヴィ好きすぎて頭おかしい(末期)
・マイスラらぶらぶ度3割増し(当社比)
・邪羅くん登場(不憫)



【早朝の書庫】

マイダード「うーん……(頁をパラパラ)」
蜜里「調べ物?」
マイダード「お、蜜里ちゃん。久しぶり」
蜜里「マイダードが書庫にいるなんて珍しいわね。スラヴィが探してたわよ」
マイダード「ん……」
蜜里「いつまで彼女を避けてるつもり?」
マイダード「避けてるように見えるか、やっぱり」
蜜里「そりゃあ、ね。今までずっと一緒にいたのが急に離れれば、誰だって不自然に思うわよ」
マイダード「そうか」
蜜里「あんなことがあって、気まずいのはわかるけど……」
マイダード「別に、気まずくはない。まだポニーテールほどいただけだったし……」
蜜里「そこから!?」
マイダード「どこから脱ごうが個人の自由だろ」
蜜里「髪は脱ぐとは言わないわ。実はヅラとか?」
マイダード「違う」
蜜里「……もしかして、その調べ物と何か関係があるわけ?」
マイダード「まあな(本を閉じる)」
蜜里「まだ氷火のこと気にしてるの?あいつはもう消息不明だから心配ないって、あの方も……」
マイダード「それが怖いんだ」
蜜里「?」
マイダード「魔性ってのは基本的に、弱い者いじめが大好きな生き物だろう?妖貴が妖主の座を狙って下克上とか、妖鬼が小鬼を庇って妖貴に歯向かうなんて話は、聞いたことがない」
蜜里「耳が痛いわね」
マイダード「もちろん、蜜里ちゃんは違うってわかってるよ。だが大抵の魔性は、強者に痛めつけられると、弱者を攻撃して憂さを晴らそうとする。おれが連中を嫌いなのは、そういった習性のせいもある」
蜜里「……」
マイダード「心配してるのはそこだ。ラエスリールに命を奪われた氷火が、ラエスリール本人に恨みを向けると思うか?」
蜜里「!」
マイダード「八つ当たりで、スラヴィに矛先が向かう可能性は十分にある。気に入ったなんて言っても、あいつらの好意ほど信用できないものはないから」
蜜里「相変わらず、臆病で慎重なのね。見かけによらず」
マイダード「これでも奪還チームでは作戦担当だったしな。ターラは切り札、スラヴィは交渉担当、オルグァンは暴力担当」
オルグァン「人をオチに使うのはやめろ」
マイダード「あ、旦那。おはよう」
オルグァン「おはよう。そしてお望みの暴力だ(両頬を引っ張る)」
マイダード「いててててててて」
蜜里「もうあなたたちがくっつけばいいんじゃないの」
マイダード「だってさ、どうする?(笑)」
オルグァン「……スラヴィが食堂で騒いでたぞ。マイダードはどこにいるんだって。知らんと答えておいたが」
マイダード「……」
オルグァン「そんな顔をするくらいなら、今すぐ戻って傍にいてやれ」
マイダード「今は、無理だ」
オルグァン「なぜ……」
マイダード「後顧の憂いは断っておかないとな」
オルグァン「気持ちはわかるが、どうやって……?相手は妖貴だ、行方も分からんし、まみえても返り討ちに遭うだけだぞ。また蜜里を頼るのか?」
マイダード「それはもうしない。蜜里ちゃんに何かあったら、ターラが悲しむからなあ」
蜜里「私があいつに後れを取るとでも?」
マイダード「そうじゃないが、同じ手は二度使えないし、もっと相応しい相手がいる。邪魔な連中同士、潰し合ってくれるのが一番効率がいいんだ」
オルグァン「まさか……」


【食堂】

邪羅「ふぇっくしょおおおん!」
リーヴィ「やあね、風邪?魔性のくせに変なの」
邪羅「うるさいな!十三まで人間だと思ってたから、まだその頃の生理現象が残ってるんだって、説明したろ?」
リーヴィ「何とかは風邪引かないはずなのに、おかしいわね。こっちにうつさないでくれる?(手をパタパタ)」
邪羅「お、お前なーっ!前から思ってたけど、ほんっっと可愛げないな!姉ちゃんなんかな、昔、おれが寒がってたら一緒のマントに入れてくれたんだぞっ!」
リーヴィ「……へーえ……(低い声)」
邪羅「な、なんだよ」
リーヴィ「だったら、別に無理して浮城にいる必要はないんじゃない?優しい優しいラスのところに行って、可愛がってもらえば?それじゃ」
邪羅「お、おい!待てってば!」

スラヴィ「……(一人でパンを食べている)」
スラヴィ(若いっていいわね……)
スラヴィ(昔のわたしたちみたい)
スラヴィ(いや、今も同じか……)
スラヴィ(マイダード、やっぱり怒ってる?最後までできなかったこと……)


【回想】

氷火「じゃ、頑張ってね」
マイダード「………」
スラヴィ「………」
マイダード「………(俯く)」
スラヴィ「………(ベッドに座る)」
マイダード「……(驚いて振り返る)」
スラヴィ「いつまで突っ立ってるの?するなら早くしましょう」
マイダード「わかっちゃいたが……お前、本当に漢前だな」
スラヴィ「ちゃんと見てる?手とか震えてるんだけど」
マイダード「だったら止めよう。あいつ絶対嘘ついてるし、よしんば真実だったとしても、別の方法があるだろ」
スラヴィ「……」
マイダード「スラヴィが嫌なことは、おれも嫌なんだよ」
スラヴィ「嫌だなんて一言も言ってないけど」
マイダード「だって、震えてるって……」
スラヴィ「武者震いかしらね」
マイダード「あのな……」
スラヴィ「わたしだって、そんなに強くない。マイダードたちがいてくれるから戦えるの」
マイダード「スラヴィ……」
スラヴィ「日頃ぞんざいな扱いをして申し訳ないとは思ってるけど、感謝してるのよ、これでも」
マイダード「感謝……か」
スラヴィ「なに?」
マイダード「以前、みんなの前でおれに聞いただろ?『わたしをなんだと思ってるの、あなたは』って。あれは嬉しかった……おれにどう思われてるかなんて、スラヴィは全く気にしてないと思ってたから」
スラヴィ「卑下しすぎでしょ。何年一緒にいるの、わたしたち」
マイダード「嬉しかったんだよ。ずっと、おれが一方的に好きなだけだと思ってたから」
スラヴィ「………」
マイダード「スラヴィ?」
スラヴィ「続けて」
マイダード「偉そうだな……まあ、実際偉いからいいか。それで、スラヴィはおれのことどう思ってるんだ?」
スラヴィ「はあ?好きに決まってるでしょ」
マイダード「…………」
スラヴィ「なによその顔は」
マイダード「いや、何もそんな怖い顔して言わなくたっていいだろ!?」
スラヴィ「悪かったわね、これは生まれつきよ」
マイダード「そうか……良かった」
スラヴィ「どっちが?顔が?」
マイダード「顔じゃない……」
スラヴィ「そう」
マイダード「良かった、同じで」
スラヴィ「………」

マイダード「っていうか、お前さっき部屋の鍵壊したよな?」
スラヴィ「あ」
マイダード「扉が開いたままでは、さすがに……」
スラヴィ「そうそう、古くなってたからね、ついでにつけかえてあげるつもりだったの。代わりの錠前もらってくる」
マイダード「あ……待った(腕を掴む)」
スラヴィ「どうしたの?」
マイダード「別に、この部屋じゃなくてもいいんだよな。スラヴィのところに行ってもいいか?」
スラヴィ「え……」
マイダード「たぶん、待てないから……」
スラヴィ「…………」


【スラヴィの部屋】

スラヴィ「少し散らかってるけど」
マイダード「おれの部屋に比べたら、全然。未羽は?」
スラヴィ「下がらせたから安心して。この子も隠しておいた方がいい?」
マイダード「夢晶結……か」
スラヴィ「一応、意思あるものだし」
マイダード「おれ、そいつ嫌い。隠しといて」
スラヴィ「(笑)」
マイダード「なんだよ」
スラヴィ「魔性の命を体内に飼ってる人は、大変だなと思って。破妖刀なんて、恐怖の対象でしかないでしょうに」
マイダード「破妖剣士さまがしっかり抑えつけておいてくれれば、問題ないんだけどな」
スラヴィ「なのに、紅蓮姫奪還なんて危険な任務には参加したわけね。どうして?」
マイダード「そりゃあ、心配だし、近くにいたかったから……」
スラヴィ「主語がないんだけど?」
マイダード「……スラヴィって、おれを苛めて楽しんでないか?」
スラヴィ「それはある」
マイダード「はあ……(頭を掻く)。ま、いいか。いまからおれが苛めるし」
スラヴィ「………」
マイダード「冗談だからな?」
スラヴィ「ええ……」
マイダード「………(ポニーテールほどく)」
スラヴィ「マイダードが髪おろしたの、久々に見たわ」
マイダード「かっこいいか?」
スラヴィ「禿げてたんじゃなかったのね」
マイダード「………」
スラヴィ「明かり消して」
マイダード「……うん」

(天井から床に落下してくる氷火)

氷火「いてて………飛ばされたか」
マイスラ「!?」
氷火「あ、邪魔しちゃった?それはよかった、君たちだけが幸せになるなんて許せないからね」
マイダード「………!」
氷火「二重の意味で臨戦態勢のところ悪いけど、もうそんなことをする必要はないよ」
マイダード「な……」
ラス(二人とも、聞こえるか?もう大丈夫だ、術は解けた)
スラヴィ「ラス!?」
ラス(氷火の心臓に宿った命の一つと、スラヴィにかけていた術は、連動していたんだ。彼の命を奪った以上、術も消滅したから……)
スラヴィ「そ、そう。ありがとう……」
ラス(彼がどんな嘘をついていたか知らないが、間に合ってよかった)
マイダード「………」←ちっともよくない、と思っている
スラヴィ「………」←複雑
未羽「………」←覗き見中。必死で笑いをこらえている
氷火「僕も、これ以上痛い目に遭うのはごめんだからね。二度と君たちには近づかないよ、これで満足だろう?それじゃあ」
(言葉に反して、殺気立った瞳で二人を睨みつけて消える氷火)


マイダード「さて……戻るか」
スラヴィ「え、でも……」
マイダード「良かったな、術が解けて。おれの毒牙にかからずに済んで」
スラヴィ「どうしてそんなこと言うの!?」
マイダード「事実をそのまま言っただけだよ。お前だって、内心ほっとしてるんだろ?」
スラヴィ「な……」
マイダード「帰るよ。邪魔したな」
スラヴィ「いい加減にしなさいよ、つまらないことでグチグチと、子供みたいに拗ねて!そういうとこ大っ嫌い!」
マイダード「………」
スラヴィ「あ……」
マイダード「……知ってる。おれも時々、自分が嫌になる」
スラヴィ「マイダード、違うの。わたしは……」
マイダード「やっぱりおれなんかより、旦那みたいな男らしい男の方がいいよな」
オルグァン「呼んだか?」
マイダード「!!」
オルグァン「泣かすなと言っただろう。この甲斐性なしが(殴打)」
マイダード「(昏倒)」
スラヴィ「ちょっと!わたし別に泣いてないんだけど!?あと鍵もかかってたはず……」
オルグァン「蜜里から話を聞いて、急いで来てみればこれだ。全くお前たちは、おれがいないと(以下説教)」
スラヴィ「だからって、ここまですることないでしょう!?この暴力男!(バキドカッ)」
オルグァン「(昏倒)」
スラヴィ「マイダード、しっかりして!(ペチペチ)」
マイダード「ZZZZ」
オルグァン「ZZZZ」

〜数十分経過〜

スラヴィ「ZZZZZ]



【回想終了】

スラヴィ(あれから、マイダードは明らかにわたしを避けてる……)
スラヴィ(そりゃあ、両思いなのわかってて、長い間勿体付けてたわたしも悪かったけど)
スラヴィ(でもあのくらいのことで怒ることないじゃない)

スラヴィ「ん………?あれは」


【中庭】

邪羅「いまさら、話ってなんだよ?魔性とは関わりたくないんじゃなかったっけ?」
マイダード「おれも、出来れば関わりたくなんかなかったんだけどな。事情が変わったんだ」
邪羅「はっ、ご都合のよろしいことで。言っとくけどそっちの頼み事なんておれには聞く義務ないね」
マイダード「そんなこと言っていいのか?おれを攻撃したこと、ラエスリールに告げ口してもいいんだぞ」
邪羅「ね、姉ちゃんの行方なんて知らないくせに……!」
オルグァン「その件なら、スラヴィが女皇と繋がってる。遠くにいる彼女と、頭の中で会話というか、意思疎通ができるようになった」
邪羅「もう一人いたのかよ……って、嘘だろ!?」
マイダード「妖貴の術の後遺症ってやつだな。いいんだか悪いんだかわからないが、それを知ったあいつらが、スラヴィに馴れ馴れしく近づいてきて迷惑してるんだ。お前ならなんとかできるだろ?」
邪羅「あいつら……って、サティンとセスランか。ずっと姉ちゃんと連絡とりたがってたし、そりゃそうだろうな」
マイダード「お前の好きなあのお嬢さんは、今のところ蚊帳の外みたいだが……」
邪羅「っ!」
マイダード「放っておくと、あの子は一生、お前よりラエスリールが好きなままだぞ。それでもいいのか?」
邪羅「べ……別にあんな小娘好きじゃねえし……」
マイダード「それにあの時、おれに言ったよな。魔性を拒むんじゃなくて、理解し、利用し、共存することを考えるべきだって。おれたちは言われた通りそれを実行しているまでだ。言い出しっぺのお前さんが、まさか断ったりしないよな?」
邪羅「ぐ……」
マイダード「なんなら、おれからリーヴシェランに言っても……」
邪羅「ぎゃー!やめろっ!わかった、何が望みなんだよ!?」
オルグァン「氷火を消してくれ」
邪羅「!?」
マイダード「旦那、おれの台詞を……」
オルグァン「あいつがこのまま引き下がるとは思えん。恐らくスラヴィとこいつに復讐する機会を、虎視眈々と狙っている。あれがこの世で息をしている限り、おれたちに安寧の日々はない」
マイダード(おれが言いたかった台詞全部取られた……)
邪羅(人間って怖ええ……)
邪羅「そ、それならおれじゃなくても、姉ちゃんに直接頼ればいいじゃん?なんてったって女皇なんだし。氷火ってやつだって、姉ちゃんには逆らえないはずだろ?」
マイダード「お前さんは単純で可愛らしいが、ラエスリールはいまいち信用できない。土壇場で裏切りそうな気がする」
邪羅「まーた姉ちゃんを悪く言いやがって!」
マイダード「そもそも、スラヴィを心配して氷火の命を奪うなんて、あれはいつからそんな優しい性格になったんだ?ラエスリールの心は、昔も今も魔性そのものだ。むしろ、可哀想な氷火に心から同情して、命を戻してやったりする方が想像つく」
オルグァン「確かに……(原作ではそうだったしな)」
マイダード「いずれ心変わりして、氷火にも悪気はなかったんだから仲良くしてやれ、なんて言われた日には、いくら温厚なおれたちでもそろそろ切れるぞ」
邪羅「あー……まあ、うん。わからないでもない」
マイダード「そういうわけだからよろしく。事が成就した暁には、ちゃんと報酬をやるよ」
邪羅「報酬ってなんだ……?」
マイダード「まだ秘密だよ。白焔の妖主の一粒種にして、ユラク消滅主犯の息子さん」
邪羅「……!!」
マイダード「書庫で色々と調べさせてもらった。これ以上後ろ暗いこと、リーヴシェランに知られたくないだろ」
邪羅「……おれ、お前のこと人間にしては強いって思ってたけど」
マイダード「そりゃどうも」
邪羅「警戒しなきゃならないのは、力じゃなくて頭の方だったみたいだな」
オルグァン「今までこいつの作戦がうまくいった試しはないが……」
マイダード「旦那はちょっと黙ってて。せっかく褒めてくれてるんだから」



スラヴィ「……」
スラヴィ(あいつら、またわたしに隠れてこそこそと……)
スラヴィ(わたしを何だと思ってるの?)



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