彼はきっとバスケ推薦が多数くる。
だからそれで彼の進学先が決まるまで、自分の志望校は誰にも教えない。
そう決意して、周りからの問い掛けもかわし、思惑通りに彼と別の高校へ進んだ。
別の高校でも都内であれば会ってしまう可能性もあるが、運良く彼が進んだのは神奈川の学校だ。
これなら平日はまず会うことはないだろう。
休日だって部活があるのだからめったなことでは会うことはない。
彼がモデルの仕事で都内に来ることもあるだろうが、そういった場所に近づかなければ大丈夫だ。
同じ校内にいた中学の時に比べて、格段に避けやすくなった。
そんな油断があったからか、それとも一方的に避け続けたからか、こんな単純なことに気づかなかった自分に呆れる。

「キセキの世代がいるところと練習試合組んじゃった。」
リコがそう言い放ったとき、部員達は「なんちゅー無謀なことを!」と誰もが思い、唖然とした。
しかしそんな中、黒子だけは別の意味で唖然としていた。
誠凛は新設2年目だ。
特別にスポーツに力を入れている訳でもないから、いくら昨年のIHで好成績を納めていても、わざわざキセキの世代のいる学校と練習試合などしないと踏んでいた。
監督が女子高生とはいえ、力量を過剰評価などしないと思っていたからだ。
(まさか、キセキの世代がいるところと練習試合を組むなんて…)
リコの様子ではキセキの世代を獲得した関東の学校全てに練習試合を申し込みしそうである。
「あの、カントク。ちなみににどこの学校ですか?」
「それはね…海常よ!」
リコから伝えられた学校名に黒子は青ざめる。
折角うまく避けられていたのに、安心した途端にこんなことがあるなんて運が悪いとしか言いようがない。
うまいことリコに怪しまれずに練習試合への同行を辞退する方法はないものかと必死に考える。
仮に事前に休みの許可を貰えなくとも、当日に体調不良でもなんでも言い訳を作って休もうと考えていたときだった。
「なんか騒がしいわね。」
そう言ってリコがそちらへ顔を向け、黒子も同じように顔を向けたことを激しく後悔した。
そこにいたのは黒子が避け続けてきた黄瀬がいたからだ。
見間違いか幻ではと、そうであってほしいと願う黒子の思いを打ち砕く声がした。
「黄瀬涼太!?」
誰かが叫んだのを聞いて、やはりあれは見間違いや幻でないのだと知る。
あんなに必死に避けてきたのにこんなあっさり黄瀬に会ってしまうなんて神様はなんの恨みがあるのかと思うも、いつまでもショックを受けている場合ではない。
どうにかこの場を切り抜けなければならない。
気づかれる前に早く体育館から去らなければ、今までの苦労が水の泡だからである。
しかしそんな黒子を嘲笑うかのように黄瀬が黒子に気づき声をかけてきた。
「黒子っち!お久しぶりっス!」
このまま聞こえないふりをして去ってしまいたいと思ったが、沢山の目が黒子を捕らえているのでできそうにない。
こうなれば不審がられない程度に相手をしてさっさとこの場を離れることにする。
「お久しぶりです、黄瀬くん。いきなり誠凛に来たりしてどうしたんですか?」
「今度やる練習試合の相手が誠凛だって聞いたから、先に黒子っちに挨拶しておこうと思って。」
「私が誠凛にしたこと知ってたんですね。」
「赤司っちに聞いたんスよ。まぁ卒業してからっスけどね。」
まさかわざわざ自分に会いに来たとは思っていなかった黒子は、平静を装いながらも頭は混乱していた。
一番の協力者だったはずの赤司が、黄瀬に進学先を教えていたことにも動揺していた。
(赤司くん酷いです。教えないと約束したのにっ!)
黒子が心の中で赤司への文句を言っていると、急に黙り込んでしまったことを不審に感じたのだろう黄瀬から声がかかる。
「黒子っちどうしたんスか?」
黒子の心境としては今すぐにでも赤司に連絡をとり、何故黄瀬に自分の進学先を教えたいのか問い詰めたいところである。
しかし、黄瀬をどうにかしないことにはそれも無理だとはわかっているので、ここは黄瀬に早急にお帰りいただくことにしようと考える。
「黄瀬くん、君がいると人が集まって練習できないので帰ってもらえますか?」
「黒子っちが時間取ってくれるならいいっスよ。」
「…っ!それは…」
「取ってくれるっスよね?」
以前だったら酷いとぎゃいぎゃい騒ぎながらも帰っていたはずの黄瀬が引き下がらないことに黒子は怯む。
しかし今ここで押し問答するわけにはいかない。
すでに部活に支障が出ているのだ。
「わかりました。カントク達に許可貰ってきます。黄瀬くんはその間にギャラリーをどうにかしてください。」
そう言って集まっているチームメイトの方へ向かっていった。


「用件は手短にお願いします。」
カントクや主将に部活を一時的に抜ける許可を貰った黒子は、黄瀬と共に体育館脇にいた。
二人でいるところをファンに見られたらと心配したが、黄瀬は黒子の言った通りにギャラリーを体育館や付近から撤収させており杞憂であった。
「そんな素っ気ない態度とるなんてヒドイじゃないっスか。カレカノだった仲なのに。」
「フリですけどね。」
黒子は黄瀬の様子に違和感を覚え、言い知れぬ不安を感じた。
何も言わずに姿を消したことに怒っているのだろうか、連絡も無視し続けていたのだし怒っていないはずがないなどと色々考えていた時だった。
「だからって突然行方くらまされて俺がハイソウデウカって納得すると思ってんの?」
「…っ!」
試合の時とも違う目に射抜かれ黒子は恐怖した。
黄瀬は黒子に対してはいつだって笑顔で、こんな顔は見たことがない。
こんな男の顔をする黄瀬は知らない、これは誰だと頭の中で誰かの声がした。
「…っ、な、納得してもらおうとは思ってません。確かに何も言わずに姿を消したり連絡に応えなかったことは申し訳なかったと思ってます。でも、私がどうするかは私の勝手です。黄瀬くんには関係ありません。」
動揺を恐怖を後悔を、それらを悟られないように黒子は精一杯平静を装う。
ここでボロを出してしまったら今まで頑張ってきたことが無駄になってしまうとわかっていた。
なんとかこの場を乗り切るために必死に言葉を紡ぐ。
「大体、わざわざ誠凛まで来て、一体何を考えているんですか。こんなことをしている暇なんてないでしょう。早く自分の学校に戻ってください。」
いつも通りに言えた、黒子がそう思ったときだった。

ダンッ!

壁に背中から打ち付けられ痛みに顔を歪める。
「何考えてるって?本当にわからない?」
至近距離で見つめてくる黄瀬に気を抜いたことを激しく後悔した。
逃げ出そうにも男と女の力の差がそれを許さないことに黒子は悔しさを感じる。
「俺がどれだけ探したと思う?連絡しても無視されてどれだけショックだったかわかる?それなのに俺には関係ないって?本気で思ってるの?」
力の差がなんだ早く逃げなければと思っていた黒子だったが、しかし黄瀬の目を見ては出来なかった。
押さえつける力は先ほどと変わらず強い。
けれど、目が恐怖に揺れていた。
黒子に本気で関係ないと言われることに怯えている目。
何故、黄瀬がそんな怯えた目をするのかわからず混乱する。
黄瀬にとって黒子はかつての仲間で、彼女役をしてくれる都合の良い人間だと思っていた。
だからこそ一方的に別れを告げて、黒子は逃げたのだ。
「そ、うです…よね。友達に無視されたらショックですね。すみません。」
そんな混乱する頭で必死に考えて出てきたのはなんとも間抜けな言葉だった。
黄瀬が求めているのはこんな回答でないのはわかっていたが、他に言葉が出てこなかった。
言うべきは他にあるだろうと黒子は心の中で思わず自分に突っ込みを入れた。
それでも言葉が出てきただけマシだったのかもしれない。
黄瀬の目にとてつもなく動揺し、無言になりかねなかったのだから。
「何で逃げたのかは聞かない。だからもう無視はしないで欲しいっス。」
黒子の戸惑いを察したのか、そう言って黄瀬は押さえつけていた手を離した。
纏う空気も、目も、先ほどまでの様子と違う。
黒子の知っているいつもの黄瀬だ。
自分の知っている黄瀬の様子に黒子は思わず安堵した。
「わかりました。もうメールや電話を無視したりしません。」
「来週ウチで練習試合っスけど、そん時もっスよ?」
「はい。」
彼女のフリをする必要がない分、以前ほどとは言わずとも普通の友人関係は築けるかもしれない。
そう思って、逃げるのをやめようと黒子は決めた。

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