「黒子っちは何処っスか。」
その日、黄瀬は赤司の元へ来てそう問うた。
「何処もなにも今は昼休みだから教室にでもいるんじゃないか?」
「そうじゃないっス!」
強く机を叩き、いらついた口調で言う黄瀬は一体何に焦っているのか。
「今のことを言ってるんじゃないっス。全中が終わってから2週間、まったく姿が見えないんスよ!」
そう言ってまたも机を叩き威嚇する。
(たった2週間でこれか…)
赤司は心中でため息を吐いた。


黒子が姿を消した。
全中の翌日のことだった。

3年は全中が終われば引退だ。
それは他の部と違わずバスケ部も同様。
だからといって翌日から完全に部活に参加しないのかと言えばそうではない。
特にマネージャーは引き継ぎ等があるため残りの夏休みの部活は通常より忙しいくらいである。
それが何故か黒子だけは全中の翌日から姿を現さなくなった。
1日や2日は体調でも崩したのかと思っていた。
多少体調が思わしくなくとも全中が終わるまでは無理をする可能性が大いにあったからだ。
それが数日続き、黒子が残りの夏休みの部活に出ないまま新学期が始まった。
数回、メールを入れてみたが返信はなかった。
結局、夏休みの間に会うことはなかったが、学校が再開すれば会えるだろうと黄瀬は思っていた。
その時に休んでいた理由も聞くつもりであった。
それがどうだ。
学校が始まり夏休み前と同じように昼休みにいつもの場所で待っていても一向に姿を現さない。
休みかと黒子のクラスメートに聞けば学校には来ているという。
おかしく思い、携帯に電話をするも出ない。
何処へ行ったのか聞いても誰も知らない。
しょうがなく一人で昼食をとり、放課後に迎えに行くことにした。
ところが放課後に迎えに行けば姿はなく、またもクラスメートに問えば既に帰宅したという。
何かあったのではと心配になり連絡するもまったく反応無し。
ひとまず全中後に部活にこなくなった理由だけでも知りたいと赤司に聞けば、約束だったと。
どういうことかと問えば、部活に出るのは全中まで。
マネージャーの引き継ぎもそれまでに行い、全中が終わったら一切バスケ部には関わらないとのことだった。
キャプテンである赤司が聞いているのはわかる。だが、何故彼氏である自分が聞いていないのだと憤りを感じても、すでに黒子は部をやめている。
関わらないの宣言通り、こちらからの接触すらできないように逃げている。
赤司は何故黒子がそんなことをするのか知っているようだが、はぐらかして答えにならない。
粘っても欲しい答えは出ないようであったため、その場はひとまず退いたが納得はしていなかった。
それからもう一度赤司の元へくるまで黄瀬は毎日黒子のクラスへ行っていたが、一度も会うことはできなかった。
もちろん連絡もしていたがやはり返事は一度もなかった。


「いくら関わらないったってメールの返事すらくれないんスよ!?おかしいじゃないっスか!俺は黒子っちの彼氏なのに!」
「それはフリだろう?フリをするのは全中が終わるまでと聞いたが。」
「そうっスけど…」
「ならテツナと関わる必要はないじゃないか。」
「でもっ…!」
「でも、なんだ?テツナは約束を果たしたのに何が不満なんだ。」
赤司が問えば黄瀬は返す言葉を失った。
反論したくともしようがなかった。
彼女のフリを頼んだのも期限を全中終了までにしたのも全て黄瀬からだったからだ。
「カレカノじゃなくたって、せめてメールくらい返してくれたっていいじゃないっスか。
それくらい友達ならするのに…」
「お前は今までテツナに負担を強いていたのに、まだ負担をかけるのか?もうテツナに関わるのは止めろ。」
「納得いかないっス。」
「お前が納得いこうがいかなかろうが、とにかくテツナにはもう関わるな。いいな?」
赤司に強く念を押され、それでも強固な態度を取ることはできなかった。
諦めたわけではない、けれど今ここで赤司から聞き出そうとしても無理なことは分かった。
ならば他を当たればいい、理由を聞くまでは絶対に諦めてなるものかと黄瀬はその場を去った。


「青峰っち!黒子っちと最近会ったっスか!?」
「は?なんだよ突然。」
赤司から聞き出すのを諦めた黄瀬が次に向かった先は青峰だった。
青峰の才能に惚れ込み影となって支えていたのだから、辞めた理由くらいは知っているだろうと踏んだからだ。
「メールはしてっけど会ってはいねーよ。」
「いつ!?最後にメールしたのはいつっスか!?」
「うるせぇな。確か先週だよ。」
「先週!?間違いないっスか!?」
「履歴見りゃ詳しい日にち分かんだろ。ちょっと待ってろ。…正確には4日前だな。」
自分が送っても送っても無視されたのに対し、青峰はつい4日前にメールをしている事実に黄瀬はショックを隠しきれない。
何故だと思って、しかし答えはすぐに出た。
頼み込まれてフリをしていた偽の元カレより、自分から望んで支えていた相手のほうが良いに決まっている。
だが今はそんなことにショックを受けている場合ではない。
黒子が姿を見せない理由を知ることのほうが先である。
「黒子っちが急に部活に来なくなった理由知らないっすか?」
「テツが部活に来なくなった理由?引退したからだろ。」
「そうじゃないっスよ!マネは引き継ぎとかあるじゃないっスか。なのに全中前に終わらせてそれ以降まったく出ないとかおかしすぎるっス!」
「お前何言ってんだ?部活のほうは知らねーけど、俺らの自主トレには顔出してたぞ。てかお前部活のほうに参加してたのかよ。」
青峰から伝えられた事実に黄瀬は呆然とした。
バスケ部には関わらないと言っていたはずと思うもすぐに気づく。
青峰は引退したのだからバスケ部ではない。
バスケ部とは別の所で自主トレしていたのなら黒子が顔を出すのも矛盾はないし、黄瀬が気づくはずもない。
とすると、青峰は黒子の行動に違和感を感じていないということ。
「そういえば青峰っちだけじゃなく、緑間っちや紫原っちも部活のほうにいなかったってことは、自主トレしてたってことっスか?」
「俺と緑間以外に引退した3年はいくらかいたな。紫原は夏休み中の自主トレには来てねぇけど。」
つまり、全中終了と同時に部活を辞めたことやその理由を知っているのは赤司だけということ。
おそらく赤司は青峰達が自主トレしている場所に黒子が顔を出していたことも知っていたはずで、それでもそれを教えなかったということは、つまり赤司も黄瀬を黒子に接触させないようにしていたという訳だ。
「黄瀬も俺らのほうで自主トレするか?」
「いや、俺は今まで通りに部活のほうでやるっス。それじゃまた。」
「おー。またな。」
黒子本人だけでなく赤司のガードもあっては接触できるわけがない。
しかし何があったか知らない青峰に協力を仰ぐのは無理だろう。
完全に手詰まりである。
諦めたくはないが今はどうにもできそうにない。
(これは時間を置くしかないっスね。)
時期がくれば話もできるだろうと考える。
黒子もいつまでも逃げ回るのは大変なはずだ。
(絶対に諦めないっスよ。)
ここで一旦引くことが後々まで影響すると知る由もない黄瀬は、この後しばらく黒子への接触を断ってしまう。


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