▼ わかば様へ 二十万打リク 幸せになりたいのなら彼みたいな人がいいんだと思う。 高校に入学してから2年間ずっと不毛な片思いをしていた私を見兼ねた親友が少し前に紹介してくれた違うクラスの男の子。 彼と知り合ってから、真田先輩には会っていない。 会っていないどころかあれだけ毎日のようにしていたメールだってしていない。 そしたらどうだ、当たり前だけど向こうから連絡が来ることはなく、先輩と私との接点はいとも簡単になくなってしまった。 これでいいんだよね。 もう真田先輩が女の人と仲良くしているところを見ることも、真田先輩のちょっとした言葉や行動に喜ばされたり落とされたりすることも、もう懲り懲りだ。 紹介してもらった彼はすごく優しくて見た目だってとってもすてきな人。 なのに、彼との会話はどうしてか少しも頭に入って来てはくれなくて、一緒にいるのに何を話していたかちっとも思い出せない。 どうしてか、なんて分かってる。 2年間、いいように手のひらで転がされ続け募らせた先輩への思いはそう簡単には消えてくれない。 その証拠に、今日だって女の人と一緒に廊下を歩く真田先輩の背中を見つけては立ち止り、ちくりと痛む胸を押さえた。 毎年2月14日が近づくと街中が赤やピンクのハートで溢れ出す。 そんな景色を尻目に、きっと少しは期待しているであろう彼の横顔をそっと盗み見た。 今年は彼と遊びに出かけて市販のチョコレートを渡して、きっと今より深い関係になる。 それでいいんだ。 そう思っていたのに。 その日はもう明日に迫っているというのに、こんなにも真田先輩のことばかり考えてしまう。 去年は練習が終わるのを待って渡したっけ。 柄にもなくチョコレートケーキなんか作ってみたりして。 真田先輩はそれを受け取ってくれはしたけれど、想いを伝えることはさせてくれなかった。 今思えば分かり易すぎるくらい、はぐらかされたんだ。 それなのにその後も優しくしたりするから、諦めの悪い私はいつまでも先輩の傍を離れることができなかった。 あーぁ、もうやめようって決めたのに。 優しい彼と街中で別れて、一人で歩く夜道。 住宅街のどこかから漂う甘い香りが私の判断を鈍らせたんだ。 寒空の下、悴んだ指先でディスプレイを操作してそれを耳に当てた。 しばらくの呼び出し音の後に聞こえてきたのは留守番電話のガイドメッセージだった。 やめておけってことなの? はぁ、と白い息を吐き出し耳元から離そうとした端末を、少し迷ってから強く握り直した。 立ち止って冷たい空気を大きく吸い込む。 「真田先輩、今年もあなたにチョコレートを贈ってもいいですか」 そう言葉にしたらなぜだか涙が溢れそうになって、急いで通話を切った。 これで最後にしよう。 このまま真田先輩から答えが返ってこなかったら今度こそ本当に諦める。 家でただ返事を待つのは耐えられなくて、途中意味もなく公園の中を通ってみたりして、ゆっくり遠回りをしながら家路を辿る。 もうこれ以上遠回りもできず家が近付いてきた頃、後ろから走る靴音が聞こえた。 この辺りはジョギングをしている人も多く、邪魔にならないよう端を歩こうとするとその足音は真後ろでピタリと止まった。 人気のない夜道なだけに少しだけ怖くなって恐る恐る振り返ると、そこには息を切らせて立ち止る真田先輩がいた。 「おま、え、捜させすぎ…っ」 「ぇ…え…?」 「なんだよさっきの電話。それに、あの男、何なんだよ」 「おとこ?」 「最近一緒に帰ってるやつだよ」 知ってたんだ。 上がった息を整えながら薄っすらと額に滲む汗を拭う真田先輩。 その姿にとくりと胸が音を立てた。 普段から運動量の多い先輩がここまで息を切らせているなんて、そんなに急いで走ってきてくれたということ…? 「お前が俺の周りうろちょろしてないとなんか落ち着かないんだよ」 「…」 「名前はずっと、俺だけ見てればいーの」 「…っ」 そんなの勝手すぎるよ。 頭に乗せられた大きな手が私の頭をかき回す。 もう髪の毛も、頭の中も顔もぐちゃぐちゃだ。 またこうやって私を繋ぎ止めて。 何度私を喜ばせば気がすむんですか。 「真田先輩の周りには他に沢山いるでしょ」 「うん」 「うんって、何なんですかもう、さいてー…っ」 「うん。でも、結構前から俺、名前しか見えてなかったみたい」 涙で濡れた頬を真田先輩がそっと拭ってくれる。 滲んだ視界の先に見えた先輩の優しい笑顔にまた涙が溢れ、先輩の顔までがぼやけて見える。 直後、耳元でそっと囁かれた言葉にただただ頷いた。 2.14の約束 (あした、待ってる) ---------------------- 二十万打記念、わかば様リクの真田夢でした。 大変お待たせいたしました。 悪い男俊平に振り回されるヒロインちゃんのリクをいただきました。 悪い俊平、個人的に大好きです。 原作では益々男前な俊平に、にやにやしっぱなしです、もう! 時期が時期なのでバレンタインネタにさせていただいちゃいました。 いつもお越し下さってありがとうございます。 全部のお話を読んでくださったなんて、もう本当に嬉しいです。 これからもぜひぜひ遊びに来てください! この度は二十万打企画にご参加いただき、誠にありがとうございました! このような代物で大変恐縮ですが、わかば様限定でお持ち帰り可とさせていただいておりますのでよろしければお持ち帰りくださいませ(^O^) 今後ともよろしくお願いいたします。 2015/2/14 小鳥遊 はやと [back] |