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One week diary



少し遠回りして野球部のグラウンド近くを通って帰るのが日曜日の部活帰りの日課だった。
練習グラウンドが見渡せるここからなら遠目からだけど文哉先輩を見ることが出来た。
しかし今日はすでに練習は終わってしまった様で、グラウンドには殆ど人が見当たらない。
残念ながら文哉先輩の姿を拝むことは出来ないらしい。

まぁ今週はたくさん会えたし話も出来たし十分だよね。
いや、十分すぎる。
こんな幸せな一週間は初めてだ。
幸せすぎて怖いくらい。



「苗字?」


今週の文哉先輩との出来事を思い返して一人にまにまとしていたら、後ろから名前を呼ばれた。


・・え、ふ、文哉先輩!

慌てて頬を引き締めて振り返るとそこに立っていたのは文哉先輩だった。


「お、お疲れさまです!」
「お疲れさま。部活帰り?」
「はい」


どうしよう、どうしよう。
突然過ぎるよ、不意討ちすぎる。
心の準備だって出来てないし、何喋ったらいいの。


「今週はよく会うね」


あたふたとする私を他所に、文哉先輩は笑ってそう言った。
はい、私もそう思います。
何だろう、今週は本当に運が良い。
こんなラッキーなこときっともう暫く無いんだろうな。
そう思ったらもっと文哉先輩とお話しておきたいって思って、思い切って顔を上げると文哉先輩の優しい視線とぶつかった。


「昨日はありがとう、応援来てくれて」
「い、いえ、そんな、私は見てただけで・・・」
「苗字の声、ちゃんと届いてたよ」
「うわぁ、恥ずかしい・・すみません」
「いや・・・嬉しかったから」


え・・・

思わずぺこりと下げた頭の上から聞こえた言葉に頭を上げると、私の大好きな笑顔を浮かべた文哉先輩がいた。
どきん、と一際大きく胸が跳ねる。


「嬉しかったよ。昨日のヒットは苗字のおかげだな」


そんな、あのヒットは文哉先輩自信の力が生んだもので、私なんてこれっぽっちも役に立ってないのに。
そんなこと言われたら、そんな笑顔を向けられたら・・・


「実はお礼言いたくて、偶然会う振りして待ってたんだ。苗字がいつもここ通るの知ってたから」
「そ、そんなこと言われたら私勘違いしちゃいますよ・・っ」
「いいよ。だって俺、そのつもりで言ってるんだから」
「・・・え!?」
「俺がいつも苗字の事見てたって知らなかったでしょ?」


う、うそ・・・
だって文哉先輩が私のことを見てくれていたなんて、そんなの夢のまた夢みたいで信じられないよ。


「でも、私なんて何の取り柄もないし可愛くもないし・・・」
「そんなことない」


自分で言ってて情けなくなってきて俯きかけた私を、文哉先輩の力強い声が引きとめた。


「俺はいつも苗字の可愛い笑顔に元気付けられてきたよ」
「文哉先輩・・・」
「今週は苗字にたくさん会えてすげぇラッキーって・・俺は嬉しかったんだけどな」


表情を隠すように口元を手で覆う文哉先輩の顔は多分私と同じくらい真っ赤だ。
やばい、文哉先輩の言葉とその仕草に心臓はさっきから煩いくらいにドキドキ音を立てている。
あまりの嬉しさに涙も溢れそう。
もう涙腺は決壊寸前だ。


「あの、わ、私もそう思いました!」


もっと何か可愛くて上手いこと言えたらよかったのに。
頭の中がまだ全然整理出来ていなくて咄嗟に可笑しな返事をしてしてしまった。



「ははっ・・なんか、変なの」


私の返事を聞いて可笑しそうに笑う文哉先輩の顔はやっぱり赤くて少しだけ照れた表情だった。
そんな先輩を見たのは初めてだったから、その新たな発見に胸がきゅんとする。
文哉先輩、格好いい上に可愛いなんてもう反則だよ。


名前、て呼んで差し出してくれた文哉先輩の手にドキドキしながらそっと自分の手を重ねてみる。
大きな手が私の手を包み込んで優しく握り返す。
少し上を見上げればずっとずっと憧れてきた笑顔がすぐそこにあって、暖かいその手に私の心はじんわりと熱で満たされていった。




日曜日は幸せのはじまり




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