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One week diary



金曜日の昼休み、保健室に来ていた。
具合が悪い訳ではなくて、たまたま遊びに来たらタイミング悪く外出する先生に昼休み中の留守番を任されてしまった。

暇だなぁ。

外に外出中の札を提げてあるから、私みたいな遊び目的でここに来る人もいない。 
静かな保健室で一人パイプ椅子に腰掛けて、テーブルの上に頭を乗せると暫くぼんやりとする。


そういえばさっき教室で御幸くんと倉持くんが明日は練習試合だって話してたな。
何試合か組まれてるみたいだったけど、文哉先輩も出るのかなぁ。
明日は部活も午前で終わりだし、見に行きたいな。
どうしよう、行っちゃおうかな。


「失礼しまーす」


一人唸り声を上げながら明日のことを考えていたら保健室に来訪者が。
慌てて上体を起こして背を向けていたドアへ振り返ると、そこにはまさかの人物が立っていた。
入口のドアを開けて入ってきたのは、たった今頭の中で考えていた文哉先輩だった。



「お、苗字だ」
「こ、こんにちは!」
「どうした?具合悪いの?」
「いえ、先生に留守番頼まれて・・・」
「そっか、なら良かった」


そう言って笑った文哉先輩の笑顔に胸がきゅんとする。
私なんかのことを心配してくれるなんて。
てゆうか昨日に続いて今日も文哉先輩に会えるなんて。
しかもお話まで出来るなんて!
すっごいラッキーだよ、これ。

でも文哉先輩はどうして保健室へ来たんだろう。
もしかして文哉先輩の方こそ具合が悪いとか・・・


「文哉先輩はどうしたんですか?」
「俺はこいつが怪我したから、その付き添い」


文哉先輩が指差した隣にいたのはクラスの友達みたいで、休み時間にバスケをしていて倒れた時に腕を擦りむいたらしく、袖を捲った腕は薄らと血が滲んでいた。


「わ!血、出てますよ!消毒しないとっ」
「文哉の知り合い?治療してくれるの?」
「あ、はい」
「二年生?名前なんていうの?」
「え、あ、苗字です」


質問攻めに圧倒されながらも、先生もいないし痛そうだし・・・私がやるしかないよね。
そう思って消毒液とコットンを手に取ると、文哉先輩がそれを私の手から受け取った。


「あ、俺がやるからいいよ」
「げ、なんで文哉なんだよ」
「お前なんかに苗字を近付けられるか」


ちょっと勢いにびっくりしちゃってたから、文哉先輩が間に入ってくれて少しほっとした。
そういうところに気が付いてくれる文哉先輩のさり気ない優しさにまたときめいてしまう。
文句を言ったり言われたりしながらも、ちゃんと手当してあげている先輩の姿に思わず笑いが溢れた。


「つうか、文哉と苗字さんってどんな関係?」
「え・・・」
「同じ中学校の先輩後輩だよ、な?」
「あ、はい」


後輩。
当たり前だけど何の迷いも無く言われたその言葉はちくりと胸に刺さる。
でも本当の事なんだから仕方ないじゃん。


「よし、治療完了!」
「お、さんきゅー」


最後に絆創膏を貼った文哉先輩は片付けをすると、友達を引っ張るようにして保健室を出て行こうとする。


「じゃあ苗字、留守番頑張ってね」
「あ・・・文哉先輩!」


どうしよう、思わず呼び止めてしまった。
文哉先輩は友達を先に追い出すと、振り返って私の言葉を待ってくれた。


「あ、あの!明日の練習試合、見に行ってもいいですか・・・!?」


思い切って聞いてみたけど、よくよく考えたら敢えて文哉先輩にこんなこと聞かなくてもよかったんじゃないかとか思って、頭の中がぐるぐるしてきた。
恐る恐る文哉先輩の様子を窺ってみると、文哉先輩はきょとんとした顔の後にあの甘い笑顔でふわりと笑った。


「いいよ、もちろん!応援頼むな?」
「は、はいっ」


うわわわ、もうその笑顔に倒れちゃいそうです、文哉先輩。

文哉先輩が出ていって再び一人になった保健室。
椅子に座るとまた机に突っ伏して、嬉しさのあまりニヤけた顔で手足をジタバタとさせた。




金曜日はラッキーデー




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