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光様へ 五万打記念リク



「わ、丹波くん髪伸びたねー」


夏休み明けに会って真っ先に言われたのはそんな言葉だった。
隣の席の苗字は鞄を机の上に置くとそのまま席についた。
横目で苗字を盗み見る。
夏休みを挟んだというのに、制服の袖から出る苗字の腕は相変わらず白い。
苗字はこの夏休みの間に少し大人っぽくなった気がする。

・・・恋人でも出来たのかもしれない。

俺達の関係はいちクラスメイトで、夏休み中に彼女と会うことなんて出来るわけが無かったから、長い休みの間にそういうことがあったっておかしくはない。
そう考えたら胸が痛んで、途端に重くなった。


「なんか夏休み終わっちゃうともうあっという間だよねー」
「そうだな」


俺の気も知らずに話す苗字の言葉に頷く。
そう、俺達に残された時間は案外少ない。
夏休みが終わって体育祭や文化祭のイベントが過ぎれば、もうあっという間に受験シーズン到来。
そして3月には卒業だ。
苗字とこうして話ができるのも、もう半年しかないんだな。


「ねぇ、ところで丹波くん。その髪ってそのまま伸ばすの?」
「え、いや・・・」


どうやら苗字の意識はまた俺の頭に戻ったらしく、まじまじと頭を見ている。
引退してから少しだけ長くなった髪は整えてはいるけれど特に拘っているわけではなかったから、あまりまじまじと見られると気恥ずかしいものがある。


「まぁでも野球やる人はやっぱり短髪がいいよね!例え大学生だとしても」


彼女の言葉に思わず間抜けな顔して何度か瞬きをした。
苗字はにこりと笑って続ける。


「やるんでしょ、野球」


大学に行って野球を続けると決めたのは夏休み中のことで、野球部の連中以外にはまだこの話をしたことがなかった。
だからといって周りの同学年で苗字とそんな話をしそうな部員も思い当たらない。

だけど苗字は社交的で優しくておまけに美人だ。
そうだ・・・たしか何の繋がりか知らないが前に御幸とも知り合いだと聞いたことがあった。
仲良さげに話しているところを何度か見かけたこともある。
もしかしたら、御幸に聞いたのかもしれない。
もしかしたら、俺が知らないだけで御幸とそういう関係になっているのかもしれない。


「誰かに聞いたのか?」
「誰からも聞いてないよ。ただ、やるんだろうなぁって思ったから」


言っちゃまずかった?と小声で言う苗字に俺はただ驚いていた。
俺だって引退してから導き出すまでに少しの時間が掛かったというのに。
苗字はとうに見抜いていたというのだろうか。

彼女は俺のことなんかお構い無しに鞄から荷物を取り出して机の中にしまっている。
最後に取り出したクリアファイルの中から、夏休みに入る前に配られた進路調査票を出して机の上にぴらりと置くと頬杖をついた。


「今日進路相談だね」
「あ、あぁ。苗字は進路決めてるのか?」
「うん。私も大学進学」


やっぱり大学進学か。
苗字の成績ならそこそこの大学を狙えるんじゃないだろうか。
でも、そうなるとやっぱり苗字とこうしていられる時間はもうあまり無いんだな。
このまま別々の大学へ行ってしまえば、もう会うこともないんだろう。
きっと苗字は俺のことなんて忘れてしまうだろう。


「・・希望はどこ大?」
「んー・・・まだ未定」


苗字は指先でペンをくるくるとさせながら調査票とにらめっこを始めた。
この時期にまだ志望校が全く決まっていないなんて大丈夫なんだろうか。
しっかりものの彼女にしては随分無計画だな、と少し心配になった。


「何か迷ってるのか?」
「うーん、ていうか丹波くん待ち」
「は・・・?」


俺待ち?
それはどういうことだ?
どうにか答えを探しだそうと頭を働かせてみたが全く意味が分からない。
隣の苗字はがたりと椅子ごと俺の近くに移動すると下から俺の顔を覗き込んだ。


「丹波くんが行く大学にする」
「え?」




「丹波くんの野球、もっと見てたいの。近くで」


それって・・・


「これ、私の分も出しといて!」
「あ、おい!どこ行く・・」
「熱あるかもだから保健室っ!」


がたりと立ち上がって俺の机の上に調査票を置くと、こっちを振り向かずそのまま逃げるように教室を出ていってしまった苗字。

なんだか・・・まだ上手く状況が飲み込めなくて、苗字が出ていったドアと置いていった調査票を交互に見る。
すると目にあるものが飛び込んで、思わず一人で笑ってしまった。


「!・・ふっ・・・」


鞄の中から自分の進路調査票を取り出して進学予定の大学名を書き込んだ。
隣に並べた苗字の調査票。
志望校の欄に可愛らしい字で書かれた文字にまた笑みが漏れる。

これをこのまま担任に提出するつもりなのか。
そう考えたらおかしくて、嬉しくて。
それを裏返しにすると、苗字の後を追うために席を立った。




丹波くんとおなじとこ!
(さあ、まっかな顔したあのこをむかえに行こう)



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五万打記念、光様リクの丹波夢でした。

光様、大変お待たせいたしました。

丹波さん、初丹波さん夢です。
勝手に妄想して御幸にもやもやしちゃう丹波さん。
ちゃんと丹波さんになってたかな‥(--;)
でも意外と書きやすかった気がします(^^)
ちょっと季節外れになってしまいましたが、あの、髪の伸びた丹波さんをネタにしたかったのです(..)

このような代物で大変恐縮ですが、光様限定でお持ち帰り可とさせていただいておりますのでよろしければお持ち帰りくださいませ(^O^)

この度は五万打企画にご参加いただき、ありがとうございました!
また、いつもTRAIN-TRAIN!!にお越しいただきありがとうございます!
温かいお言葉をいただき、とても励みになります。
これからもより良いサイトにしていけるよう頑張りますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします(^^)/

2011/12/19 小鳥遊 隼斗




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