企画・記念 | ナノ

佐山遥様へ 五万打記念リク



最初の始まりは何だったのか。
ほんの些細なことだったんだと思う。


「お前鈍いから気付かねぇんじゃねーの?」
「なにそれ!そんなの洋一だってそうでしょ!」
「名前には絶対ぇ言われたくない!」


最早きっかけとなった原因すら覚えていないこの言い合いが始まってから既に10分は経つんじゃないだろうか。


「もう洋一とは口聞きたくない!」
「そーかよ、勝手にしろ!もう帰る」
「そうだね、私も今日はもうこれ以上一緒にいれない」


終いには俺に背を向けた名前。
帰ると言い出せば折れるだろうと思ったけど予想外にもあっさりと突き放されて、名前が放った言葉に一瞬ちくりと胸が痛む。
だけどその態度にまた腹が立ち、上着を掴んで立ち上がると背中を向けたまま黙り込んだ名前を置いてリビングを出た。

つい力任せに閉めてしまったリビングのドアが自分でも驚くくらいの音を立てる。

やべ、今のはさすがにやりすぎた。
そう思って一度後ろを振り向いたけどドアの向こうからは何の反応も無くて、むしゃくしゃしたまま乱暴に靴を引っかけ、名前のマンションを後にした。


こんなの、くだらない意地の張り合いだって分かってる。
だけど途中から完全に謝るタイミングを失くしてしまい後に引けなくなっていた。
それはきっと名前も同じだろう。
思い返してみれば名前とこんな風に喧嘩をするのは初めてのことだった。


「頑固すぎんだよ、ばか名前・・・」


一人でポツリと言ったそれは、少し暗くなりだした住宅街に寂しく響いた。
このまま寮に帰ったら絶対御幸に突っ込まれるだろう。
考えただけで気が重くなる。


何やってんだよ、久し振りのオフに。


俺のオフに合わせて名前が休みを取れたのは久し振りのことだった。
この休みを取るために名前が昨日の夜遅くまで残業をしていたことだって知っていたのに。

さっきこの道を通った時は名前の手、握ってた筈なのにな。

下を向いて広げた左手の手のひらを見つめて深い溜め息を吐く。
口から漏れたその息はうっすらと白い息に変わった。




「さみぃ・・・」


冷たくなった手をポケットの中に突っ込んだらいくらかましになったけど、やっぱり名前の手の温かさには敵わない。

あいつも今、寒い思いをしてるんだろうか。
俺が出ていった後、ちゃんと玄関の鍵はしめただろうか。
もしかしたらあの部屋で、一人泣いているかもしれない。

以前、部屋で一人のときは寂しいと言っていた名前を思い出した。
あいつが泣き虫だって知ってる癖になんで置いて来たりしたんだろう。
いつだって名前の隣にいるって誓ったのに。

今になってそんなことが頭に浮かんで、今度は自分の大人気なさに腹が立つ。


気が付けばさっきまでの名前への感情なんてどこかにぶっ飛んでいて、名前のマンションに向かって元来た道を走り出していた。


マンションの階段を一段飛ばしで駆け上がる。
たった三階なのに、この階段の長さをこんなにももどかしく感じたのは初めてだ。
階段を昇りきって玄関のドアに手を掛けると、やっぱり鍵は掛かっていなかった。

危ないじゃねぇか、とか入ってきたのが俺じゃなかったらどうするんだとか思うところはあったけど、それよりも先に名前の元に行きたくて、靴を脱ぎ捨ててリビングのドアを勢いよく開けた。

すぐ目に飛び込んできたのはソファに膝を抱え小さく丸まって座った名前。
少しだけ怯えた表情から、入ってきたのが俺だと認識すると驚いた顔を見せた。
その瞳はやっぱり赤く、頬は流れた涙で濡れている。

俺が泣かせてしまったんだ。

名前の泣き顔にさっきとは比べ物にならないくらい胸が痛む。
何も言わずにソファの前にしゃがみこんで名前の腕をぐんと引き、自分の胸に抱き寄せた。
嫌がられたとしても絶対に離したくなくて、その身体をきつく抱き締める。


「なん、で・・・」


耳元で聞こえた声は少し鼻声だった。
多分泣いたせいだろう。


「・・・・・ごめん、置いてってごめん」


さっきまで言えなかった言葉が名前に触れたらこんなにもすんなりと言えた。
頭を横に振った名前の髪が首に触れてくすぐったい。


「私こそごめんなさい、ムキになって・・・仲直り・・してくれる?」


そう言って俺を見上げた名前の目は真っ赤だったけど涙はもう止まっていた。
ただ、その表情はまだどこか少し不安げで、俺の指を弱々しく握る名前の手を握り締めてやる。


「おう。これで仲直り、な」
「うん」


やっと安心した笑顔を浮かべた名前につられて俺も笑顔になる。


「私、好きな人と喧嘩したのなんて初めてだ・・・」


腕の中にいる名前のその言葉を聞いて、不謹慎にも少し嬉しいと思った。
だって名前がこうして思いをぶつけることが出来たのは俺が初めてってことだろ?
言いたいことも言えずにいる仲よりうんと良いと思ってしまうのは自分勝手だろうか。


「洋一には言いたいこと言えてるってことかな?・・・なんて調子良すぎ?」
「ヒャハ!調子良すぎ!」


悪戯そうに笑う名前が俺と同じことを考えていたことが嬉しくてもう一度名前を強く抱き締めると、じんわりと伝わる名前の体温が俺の身体を温めた。


これから先、今日みたいな日がまた訪れるのかもしれない。
だけどその度にこうして絆を深めていけるなら、そんな日があってもいいんじゃないか。
きっと。


出来れば毎日、きみと笑っていたいけど。




意地っぱり
(さいごには笑顔でいられるように)



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五万打記念、佐山遥様リクの倉持夢でした。

佐山様、大変お待たせいたしました。
倉持連載の番外編のリクありがとうございました!

倉持とおねーさんの初めての喧嘩ということでしたが、この二人が何で喧嘩するのか決め切れず、結局みなさまのご想像にお任せしてしまいました(^^;
きっと倉持のヤキモチとか倉持に格ゲーで全く勝てないおねーさんがふてくされ→そして喧嘩へ、みたいなほんっとにくだらいことだったんだと思います(笑)
そしてやっぱり先に折れちゃう倉持。

このような代物で大変恐縮ですが、佐山様限定でお持ち帰り可とさせていただいておりますのでよろしければお持ち帰りくださいませ(^O^)

この度は五万打企画にご参加いただき、ありがとうございました!
また、いつもTRAIN-TRAIN!!にお越しいただき、小鳥遊に構っていただいて本当にありがとうございます!
いつも佐山様からいただくコメントにとってもとっても励まされております。
こんなわたくしですが、これからもどうぞよろしくお願いいたします(^^)/

2011/12/18 小鳥遊 隼斗




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