企画・記念 | ナノ

しほ様へ 五万打記念リク




日曜の午後、誰にも気付かれないようにこっそりグラウンドを抜け出してそのまま早足で校門を潜る。


「走り込みばっかやってらんないっつーの」


昼休憩が終わってから今まで基礎ばっかの練習メニュー。
他の奴らの相手をするのにいっぱいいっぱいの樹の目を盗んで、練習をちょっとだけ抜け出してやることにした。
ジャンパーのポケットに財布をしっかり入れるのも忘れない。

ちょっと気分転換したらちゃんと戻るよ。


いつもグラウンドと寮の往復が殆どで、外に出るのなんてコンビニに行くときかオフに買い物に行くときくらいだ。
よく通る道以外は学校の周りってあまり歩き回ったことがない。
いつもとは違う道を通ってみようと歩いたことの無い方向へ進んで行くと、暫くして住宅街の中に飲食店らしき店を見つけた。
何だろ、外観的にそば屋とか?


「甘味、処?」


目の前まで来た店の入口に掛かっているのは『甘味処』の暖簾。
へー、こんなとこにこんな店があったんだ。
そういや通いの部員が近くに美味しいお店があるって前に話してたな。
多分ここのことなんだろう。
外に出されているお品書きを見ると甘味以外に食事のメニューもあるらしい。


「ふーん・・・・・・てか寒っ」


取りあえずこの寒さから逃れたくて、その店に入ってみることにした。
カラカラと音を立てて入り口の戸を開けるとそんなに広くない店内に客は居らず、がらんとしていた。
きっと客の殆どが稲実の生徒なんだろうな。
日曜のこの時間じゃお客さんがいないのも頷ける。
‥にしても店の人までいないっていうのはどういうことなんだろう。
営業中だよね?
もしかして準備中だったんじゃと思い、もう一度店の外を確認しようかと思ったとき、店の奥からばたばたと足音が聞こえた。


「いらっしゃいませ!」


慌てた様子で奥から出てきたのは、長い黒髪の女の子。
年は多分俺と同じくらいだろうか。


「あ、入って大丈夫?」
「あ、はい!あの、でもすみません。今店の者が誰もいなくて・・・お料理はお出し出来ないんです」
「君は店員さんじゃないの?」
「私はこの店の子供で‥飲み物だったらお出し出来るんですけど・・・」
「ほんと!じゃあ温かいカフェオレ!・・・あ、出来る?」
「はい!」


そう言って笑った彼女の笑顔に胸が大きく跳ね上がった。
あれ、なんだこれ。

カウンターの席に座って向に立つ彼女の様子を窺う。
慣れた手つきでカフェオレを煎れる姿はとても様になっている。
多分稲実の生徒じゃない。
学校では見たことが無い顔だし、こんな子がいたらきっと噂ぐらい聞いたことがあるはずだ。
ていうか最初見たときも可愛いって思ったけど…よく見ると益々俺のタイプだ。
まだ会ってから10分そこらなのに。
彼女のことをもっと知りたいと思った。


「お待たせしました」
「ん、ありがと。あったけー・・・」


外を歩いてきて冷え切った手をカップに当てるとじんわりと指先が暖かくなる。
そんな俺の姿を微笑みながら見ている彼女に気付いて少し恥ずかしくなり、誤魔化すようにカップに口を付けた。


「おいしい」
「よかった、成宮さんにそう言ってもらえて」


その声にカップを置いて顔を上げた。
いま、成宮さんって言った?


「俺のこと知ってるの?」
「はい。だってこんな近くに住んでるんですもん。ずっと応援してました」


きょとんとした後に可愛い笑顔でそんな事を言ってくれるから、また胸がとくんと音を立てる。
そっか、俺の事知っててくれたんだ。
やばい、予想以上に嬉しい。


「ねぇ、名前なんていうの?」
「あ、苗字名前です」
「名前ちゃんね、覚えた!」


カップに残ったカフェオレをぐっと飲み干して席を立つ。
ほんとはもっと聞きたいこともあったけど、長居は出来ないし、今日のところは名前だけでも十分だ。



「ご馳走様でした。お会計」
「あ、いいですよ」
「いやいや、」
「今日は特別サービスです。内緒ですよ?」


悪戯そうに笑う彼女はそれはまた可愛らしく、その表情に気を取られて返された千円札を思わず受け取ってしまった。


「お近づきの印に。私、実は今年稲実を受験するんです」
「え?」


受験・・・?
今年稲実を受験??
てことは名前ちゃんってまだ中学生ってこと!?


「だから合格したら、春からよろしくお願いします」


そう言って笑った名前ちゃんはやっぱり大人っぽくて、やっぱり年下とは思えない。
そしてやっぱり俺は、そんな彼女にまたどきどきとしている。
これはきっと、一目惚れというやつだ。


「じゃあ絶対合格してよね」
「はい。頑張ります!成宮さん、また来てくださいね」





店を後にして、名前ちゃんの笑顔を思い浮かべながら学校へと戻る。
今ならどんな練習だって耐えられちゃうな、多分。
きっと名前ちゃん、生で俺のマウンドに立つ姿見たら俺に惚れちゃうかも。


「ぷくく、楽しみ〜」


公式戦も練習試合も無くなるこれからの季節。
それは練習嫌いの俺にとっては退屈な季節だった。
だけど待ち遠しい春を思えば、今までとは違う季節になる気がする。


名前ちゃん、マネージャーになってくれないかなぁ。
次会ったら勧誘してみよう。
あ、それより先に勉強を見てあげようかな、俺センパイだし!

吹き付ける冷たい風にジャンパーの襟に顔を埋めながら、軽い足取りでグラウンドへ戻った。




単なる口実だけど
(きみにあいたいだけ。バレバレかな?)


----------------------
五万打記念、しほ様リクの鳴ちゃん夢でした。

しほさま、大変お待たせいたしました。
甘味処の娘の年下ヒロインと鳴ちゃんという素敵な設定をリクしていただきありがとうございました!
とても書きやすくて大変助かりました(^^)
私の技量では上手く表現出来なかったのが申し訳ないですが(;o;)

先輩風吹かしてはりきってる鳴ちゃんですが、きっとヒロインの方が勉強出来るんだろうな、多分(笑)
そんな浮かれまくりの鳴ちゃんでした。

このような代物で大変恐縮ですが、しほ様限定でお持ち帰り可とさせていただいておりますのでよろしければお持ち帰りくださいませ(^O^)

この度は五万打企画にご参加いただき、ありがとうございました!
また、日頃よりTRAIN-TRAIN!!にお越しいただき本当にありがとうございます!
これからもしほ様にお楽しみいただけるよう頑張りますので、どうかよろしくお願いいたします!


2011/12/4 小鳥遊 隼斗




back








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -