▼ 霜華様へ 五万打記念リク 「で、純はちゃっちゃと名前ちゃんとキスしちゃいたいわけだ」 「ばっ!変な言い方すんなよ!」 明け透けに言った亮介の言葉を慌てて訂正しようとするも、周りにいた御幸と倉持はにたにたとしながら既に話の輪に加わっていた。 「やだー!純さんてばイヤらしい」 「御幸、てめぇ殺されてぇか?」 「ヒャハ!哲さんが聞いたら何て言いますかね」 そりゃあいい気はしないだろうよ。 倉持のその言葉に亮介がにこりと笑ったかと思うと、すっと後ろを指差した。 いや、まさか。 まさかな・・・ そう言い聞かせるようにしてゆっくり後ろを振り向くと、そこにはいつもと変わらない表情の哲が立っていた。 いや、心なしかフリーズしているような気がする。 「て、哲!いや違う!断じて違う!!」 「いや、構わない。しかし、なんだ・・・やはり少し複雑だな」 哲のその言葉にだらだらと冷や汗が流れる。 兼ねてから知り合いだった哲の妹の名前と俺が付き合い出したのは少し前のことだった。 それ以来、親友兼彼女のお兄さんという関係になってしまった哲との間にはたまにこうして妙な空気が流れる時がある。 大抵は亮介や御幸が余計なことを言うからなんだが。 今だって俺の話を亮介が捻った結果こうなったわけで、当初のニュアンスとは少し離れたものになっている。 俺はただ、もっと名前に触れたいと思う反面、名前はそう思っていないかも知れないと考えると不安で、手を繋いだその先に進めないでいることを悩んでいた。 「キスなんて純からさっさとしちゃえばいいんだよ、ねぇ哲?」 「あ、あぁ・・・」 「そうっすよ。哲さんの前で言うのもあれですけど、あいつそんなか弱い乙女じゃないですよ」 「ヒャハハ!確かに」 「まぁ純さんの前では甘えてるのかもしれないですけど」 御幸の言葉に、名前の可愛い姿を見る事が出来るのは俺だけなのかと少しの優越感に浸る。 「それより外に、名前が待ってるんだが」 「え?」 その声にみんなして哲の方を向くと、哲が部室のドアの方向を指さしてもう一度言った。 「いや、だから名前が外で純を待ってる」 「な・・おま、早く言えよぉお!」 聞こえてたよな、今の。 こんなプレハブ小屋の壁の厚みなんて高が知るている。 どうしたものかと一度頭をぐしゃりとしてから、部室のドアを開けて外へ出ると、すぐそこには名前が立っていた。 「あ、急に来てごめんね・・・!」 「いや!あの、大丈夫だ」 「う、うん」 「おう・・・」 くそ、亮介のせいでぎくしゃくしちまったじゃねぇか。 俯いて少しだけマフラーに隠れた名前の頬は赤く染まっている。 それが凄く可愛いんだが、今は呑気に惚気ていられる空気じゃない。 「部活、終わったのか?」 「うん。それで少し純さんに会えたらと思って・・・」 そう言ってはにかむ名前はやっぱり可愛くて、今すぐ抱き締めてしまいたいくらいだが、ここでそんなことをしてしまえばそれこそ亮介の餌食になってしまう。 これ以上事態を悪化させない内に早いとここの場から立ち去ってしまいたい。 「じゃあ、家まで送ってく」 「え、でもいいの?練習とか・・・」 「戻ってから自主トレするから大丈夫だ。それに・・・名前ともっと一緒にいてぇし」 名前の小さな手を握ってみたものの、あんな話を聞かれた後だから、変な風に受け止められていないだろうかと心配だったが、赤い頬のままこっちを見上げてにこりと微笑んだ名前にほっとした。 二人で並んで名前の家までの道のりを歩く。 俺が家まで送って行くときはいつも少し遠回りをして近くの大きな公園の中を通って帰る。 付き合い始めたころ、少しでも一緒にいられるようにと名前から言い出したことだった。 滅多に我儘を言うようなやつじゃないし、そんな可愛い我儘を俺が断るわけも無い。 「ねぇ純さん」 「ん?」 暫く公園の中を歩いていると名前がぴたりと足を止める。 手は繋いだままで立ち止まり、どうしたのかと聞くと、握った手にきゅっと力が籠められた。 「あの、さっき部室で話してたことなんだけど・・・」 「いや・・!あれは亮介がからかって言っただけだから気にすんな!」 「う、ん・・・」 「つっても気になるか。・・・だけど、そういうのって・・・・じゃあするか、って言ってするもんじゃねぇよな」 名前とのキスが、焦って気持ちだけが先走ったムードの欠片も無いものになってしまいたくない。 そんなことを亮介に言えば少女漫画の読み過ぎ、夢見過ぎってまた笑われるかもしれないけど。 「お互いがしたいって思った時にするもんだよな」 「私も・・・純さんとおんなじ気持ち」 名前が小さな手で俺の服の裾を握り締め、嬉しそうに微笑む。 夜の公園は暗く、所々にある電灯の灯りだけが頼りで、その僅かな灯りに照らされた瞳に吸い寄せられるようにして名前を抱き締めた。 胸の辺りに擦り寄る名前に愛しさが込み上げる。 あぁ、なんだよ。 たった今名前に格好つけて言ったばっかなのに。 「悪ぃ・・・やっぱ今がしたい時みたいだって言ったら呆れるか?」 名前の手を取り少し屈めば触れてしまいそうな距離でそう言うと、名前は大きな瞳をぱちぱちとさせる。 きっと呆れたよな。 そう思った矢先、一度ふわりと微笑んでゆっくり瞼が閉じられた。 その表情に心臓が一気に高鳴る。 繋いだ手の指先を絡めて、艶のある名前の唇にそっと触れた。 ゆっくりと唇を離した後に名前の頬に自分の顔を擦り寄せると、名前がもぞもぞと身動ぎしながら笑った。 「純さん、髭がくすぐったいよ」 腕の中で尚もくすくすと笑う名前に更にわざと近付いて。 もう一度、もっときつく抱き締めた。 ロマンチストと帰り道 (月あかりのしたできみと笑いあう) ---------------------- 五万打記念、霜華様リクの純さん夢でした。 霜華さま、大変お待たせいたしました。 純さん、どうしても純さん夢を書こうとすると、少女マンガ好き設定がチラつきすぎてべった甘になってしまいます(^^; 哲さんの扱いがなんだか可哀そうですが、お気に召していただければ幸いです。(^^) このような代物で大変恐縮ですが、霜華様限定でお持ち帰り可とさせていただいておりますのでよろしければお持ち帰りくださいませ(^O^) この度は五万打企画にご参加いただき、ありがとうございました! また、日頃よりTRAIN-TRAIN!!にお越しいただき本当にありがとうございます! これからもTRAIN-TRAIN!!と小鳥遊をよろしくお願いいたします! 2011/11/29 小鳥遊 隼斗 [back] |