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椿様へ 五万打記念リク




「哲ってさ、どうしてそう不器用なの?」
「不器用?」


昼休みに亮介が溜め息混じりにそう言った。
確かに俺は何事にも器用な方では無いと自分でも分かっている。
しかし亮介が見せた大袈裟な程の呆れ顔には流石に首を傾げた。



「この前名前に相談されたよ」


『名前』という名前に思わずぴくりと反応してしまう。
亮介の言う名前とは、同じクラスの女子で亮介の幼なじみであり、俺が・・・思いを寄せている相手だった。


「苗字に何を相談されたんだ?」
「私、結城くんに嫌われてるかもしれない、て」
「な・・・」


何故そうなるんだ。
俺が苗字を嫌いだなんてそんなことある筈がないのに。
どうしてそうなったのかと眉間に皺を寄せていると、隣に座る純の盛大な溜め息が聞こえた。


「それが原因だっつの」
「何がだ」
「だぁから!その目力を押さえろって言ってんだよ!!」
「何だそれは」


目力だと?
意味が分からない。
俺はいつだってごく自然に苗字を見ているだけだというのに。


「名前にはそれが睨まれてると捉えられてるみたいだね」
「なんだと・・・?」
「好きなやつ相手だったらもっと優しい目で見れるだろ、普通」


優しい目・・・
気持ちとしてはそのつもりだったんだが、苗字にとっては違うように見えてしまっていたのか。
不覚・・・。



「あ、ほら哲、チャンスだよ」


その声に亮介が指差した方を振り向けば、教卓に置かれたクラス全員から集めた課題のノートを両手で持ち上げようとしている苗字の姿。
きっと職員室まで運ぶに違いない。
早く行けと急かす二人に頷き、苗字に近付く。



「苗字、運ぶなら手伝うぞ」
「え、いいよいいよ!一人で平気だから」
「でも重いだろう」
「これくらい大丈夫!私結構力あるから」
「・・・そうか」
「うん」


よいしょ、とノートの束を持ち上げるとそのまま教室を出て行ってしまった苗字の背中を見送って、自席に戻る。



「お前アレか?馬鹿か」
「大馬鹿だね」


戻ってきた俺に二人は本日何度目かの溜め息を吐いた。


「なんだ」
「なにすぐ折れてんだよ!もっと粘れや」


どうやら苗字に断られて直ぐに引いた俺に呆れているらしい。
だけど・・・恐怖心を抱かれていると知った以上、あまりしつこくは出来ないと思った。
だって嫌われてしまいたくない。



「ほんっと不器用だね」


くすりと笑った亮介に、今回ばかりは自分でもそう思った。








夕方、監督に呼ばれていたミーティングルームを出てグラウンドに戻ると、グラウンドの外に立つ苗字を見つけた。


ばちりと目が合う。
何か・・何か言わなくては。



「お疲れさま!」


どうしたものかと思考を巡らせていると、先に苗字が声を掛けてくれた。


「お疲れさま」
「今日部活が早く終わったから練習見に来ちゃった」
「亮介を、見に来たのか?」
「亮介?」


何でそんなことを聞いたんだろうか。
もっと聞きたいことは他にもある筈なのに。


「結城くんがキャプテンしてるとこ見に来ました」
「おれ?」
「うん。亮介と伊佐敷くんが、野球やってる哲は格好いいんだって言うから見に来ちゃった」


苗字の笑顔にどくりと胸が跳ねた。
亮介たちがそんなことを言っていたなんて知らなかった。


「亮介たちの言う通りだね!結城くん、ほんとに野球が好きなんだね」
「あぁ。甲子園・・・あいつらと行きたいんだ」
「あ・・・・・結城くん初めて笑ってくれた」
「ん、そうか?」


俺はいつもそんなにしかめっ面をしていたんだろうか。
くすくすと笑う苗字を見て、そういえば苗字がこんなにも俺の前で笑ってくれたのも初めてなんじゃないだろうか。
気が付けば、眉間に寄せる力はいつもより緩んでいる気がする。
これが純の言っていた優しい表情なのかもしれない。



「大会、苗字に応援に来てほしい」


今までのことが嘘みたいに自然と言えた。
苗字の笑顔に心の中がじんわりと暖かくなる。




「もちろん!行くよ。だって・・・・私、吹奏楽部だから」
「あ・・・そう、だったな」










「名前と何話してたの?」
「む、見ていたのか。大したことじゃない」


苗字と別れて練習に戻る俺を、楽しそうに笑う亮介が迎えた。


「いい感じだったんじゃない?哲にしては」
「そう見えたか?」


その笑顔に、まだまだだ、と答えて俺はノックに加わる。
いつもより無駄な力が抜けている気がするのは苗字のお陰だろうか。



けれど
まだまだ、まだまだだ。


でも少しは、進歩があったと思っていいだろうか。




はじめのいっぽ
(スタートラインはまだすぐ後ろ)


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五万打記念、椿様リクの結城夢でした。

いかがだったでしょうか(^^)
哲さん夢。
なかなか書く機会が無いので不慣れ感満載ですね・・・
素敵な設定をいただいたのに活かしきれなくて申し訳ないです。

このような代物で大変恐縮ですが、お気に召していただければ何よりです。
椿様限定でお持ち帰り可とさせていただいておりますのでよろしければお持ち帰りくださいませ(^O^)

この度は五万打企画にご参加いただき、ありがとうございました!
また、日頃よりTRAIN-TRAIN!!にお越しいただき本当にありがとうございます!
今後ともTRAIN-TRAIN!!と小鳥遊をよろしくお願いいたします!


2011/10/23 小鳥遊 隼斗




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