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美音様へ 三万打記念リク




全体的にピンク系統に纏められた女の子らしい綺麗な部屋。
ドレッサーの上にはカラフルなマニキュアの瓶や化粧品が置かれている。
前に来たときはあんなもの無かったと思った。


「それでね、この前学校の帰りにみんなで遊びに行って」
「うん」
「せっかく女子会だったのに千葉くん達とばったり会っちゃってさ」
「うん」


久し振りに野球部に与えられた連休。
他の部員のように帰省という程の距離ではないが実家へと帰って来ていた。
と言っても実家には母親に声だけ掛けて、荷物を置いてすぐに隣の家に向かった。
飼い犬を可愛がるのも忘れるくらい、早く名前に会いたかった。

久し振りに会った名前は前より伸びた長い髪をふわりと巻いて、うっすらと化粧を施した顔は名前の可愛らしさを余計に際立たせている。
午前中は部活だったという名前は未だ制服姿で、夏服から覗く手足は相変わらず心配になるくらい華奢だった。
・・・それにしてもそのスカート短すぎやしないか?
そんなスカートで共学校に通っているのかと思うと許し難い。

楽しそうに近況報告をしている名前に相槌を打ちながらも、すっかり様変わりした室内を見回した。
机の横の壁に掛けられている沢山の写真で埋められたボードが目に留まる。
上から順に見ていくと、
小さい頃の二人が写った写真
中学生の時二人で撮った写真
最近二人で撮った写真
俺の雑誌の切り抜き。

ふ、と自然に緩む頬をすぐに元に戻したのはその更に下に貼付けられていた写真だった。

高校の友達と一緒に写る写真。
体育祭や文化祭、遠足・・・
そのどれも名前は笑顔で写っていて、それはどれも俺の知らないところにいる名前だった。
右下に貼られている大勢で肩を組んでいる写真。
名前の隣で肩を組む男の距離が近すぎやしないか。


「この前は部活のときに千葉くんが・・・」


さっきからやたらと耳にする『千葉』という名前。
事あるごとに出てくるな。
・・・それだけ日頃こいつの近くにいるってことか?


「なぁ、あの右下の写真・・」
「あ、文化祭の時のやつ?」
「お前の隣にいんの誰?」
「千葉くんだよ。クラスと部活が一緒なんだ」


・・・また千葉。
その名前に苛立つ俺に気が付かない名前は、にこにことして『千葉くん』とクラスメートのエピソードを話し出す。




「・・・名前は、俺がいなくても楽しそうだな」
「え?」
「なぁ、もう俺なんかいらなくなっちゃった?」
「なに、言ってんの・・・?」


自嘲気味に言ったそれは、嫌な言い方だったと思う。
こんなのただの八つ当たりだ。
だけど膨らみすぎた嫉妬心はそれを留めることができずに口から流れ出た。

俺が名前と共有出来ない時間を当たり前に近くで一緒に過ごしている写真の中の奴が許せなかった。
だけど、名前を残して青道に入寮したのは俺だ。
そんな俺が八つ当たりをする資格なんて有る訳がないのに。
もしかしたら名前は側に居てくれるそいつを好きになっているかもしれない。
もしそうだとしたら俺から身を引くべきなんだ。


でもやっぱりそんな事簡単に言える訳がなくて、喉の奥が千切れそうなくらい痛んだ。
名前を手放すなんて俺には出来ない。



「なんで・・・」


ぽそりと聞こえたその声に顔を上げれば目いっぱいに涙を溜めた名前の姿が目に入る。
同時に俺の服の裾を掴んだ名前の手は少しだけ震えていた。


「一也がいない学校なんてほんとはやっぱり物足りないよ・・でも一也が毎日電話してくれて、こうして連休には帰ってきてくれる・・・それが私の支えなんだよ」







「でも私は一也の支えになれなかったかな・・・もう嫌になった?」


あぁ、何をやってるんだ俺は。
嫉妬して名前を悲しませて。
つらいのは、不安なのは俺だけじゃなくて名前も一緒だったんだ。
ついに溜めていた涙を溢れさせた名前をきつく抱きしめて、ふわりとした髪に顔を埋めた。


「嫌になんかなれる訳ねぇよ。嫉妬したんだ・・名前と毎日一緒に居られる奴に」


どんどん可愛くなっていく名前にどうしようもなく焦った。
怖かったんだ。
昔と変わっていく名前が。
よく見れば泣き顔は俺のよく知る昔の頃のままだというのに。



「・・・千葉くんともあんま仲良くしないで」
「千葉くん?」
「あいつ名前に近付きすぎだろ」


涙を止めた名前はきょとん、とした後にくすくすと笑い出す。
その姿にむっとして、細い手首を掴んで押さえ付けた。
ぽすりとベッドに沈んだ名前は危機感なんて全く感じていないようで、未だに小さな笑い声を上げている。


「ガキって思ったんだろ」
「ううん、可愛いなって思ったの」


同じことじゃないかと思ったが、名前が笑ってくれたならそれでいいか。



「それにね・・千葉くんにはすっごく大好きな彼女がいるから心配しないで」


そう言って背中を浮かせた名前はちゅ、と俺の唇にキスをした。
久し振りのその感触を確かめるように今度は自分から唇を重ねて。
ベッドに広がる名前の長い髪を指に絡めながらさっきまでの嫉妬なんて忘れてしまったかのように、その唇に溺れていった。




ハニーメープルに蕩ける
(ぼくだけが知ってる甘いあじ)


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三万打記念、美音様リクの御幸夢でした。

切甘のリクをいただいたのですが御希望に沿えておりましたでしょうか?
当初違う舞台設定で書き進めていたのですが、御幸が恐ろしくどす黒くなってしまい、これじゃ切甘夢じゃなくてただの暗夢じゃないか!と思いこっちに書き直しました(^^)
どうしても彼を狂愛者にしたくなってしまうようで…(^_^;)

美音様、完成までお時間をいただいてすみませんでした。
お待たせした上にこのようなもので恐縮ですが、お気に召していただければ幸いです。
美音様限定でお持ち帰り可とさせていただいておりますので、よろしければお持ち帰りくださいませ(^O^)

この度は三万打企画にご参加いただき、ありがとうございました!
また、日頃よりサイトへお越しいただき本当にありがとうございます。
れからもTRAIN-TRAIN!!と小鳥遊をよろしくお願いいたします!

2011/07/02 小鳥遊 隼斗




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