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沙耶様へ 三万打記念リク




さっきからやけにじろじろと見られている気がするのは気のせいなんかじゃない。
何故ならそれはきっと俺が他校の制服を着て青道の校門前に立っているから。
そしてきっと、いや絶対。
俺が稲実のエース成宮鳴だからだ。


校門を潜り、真っ直ぐに野球部のグラウンドを目指す。
偵察なんかしに来た訳じゃないし、一也に会いに来た訳でもない。
ただひとり、会いたい奴がいるだけなんだ。




「鳴!?」


グラウンドが見えてきたかと思った所で後ろから呼ばれた声に足を止めた。
久しぶりに聞いたその声に俺の気分は一気に高揚して、勢いよく後ろを振り返った。


「名前!」


感動的な再開となる筈だった。
それなのに。
振り向けば名前の隣には邪魔な一也がいて、二人で仲良く一つのカゴを片手ずつで持ったりしてる。


「げ、鳴また来たのかよ」
「また?しょっちゅう来てるみたいな言い方すんなよ。二週間ぶりだし!」
「いや、十分頻繁だから」
「てゆうか名前に近付きすぎ。これ俺が持ってく!」
「・・・・・鳴」


一也と名前の間に入ってカゴを取り上げると、名前が静かに俺の名前を呼んだ。


「なに?名前」
「いくらオフだからって青道には来ちゃ駄目って言ったでしょ!」
「だって名前に会いたかったんだもん!」
「おま、ストレートだな・・・」


だってこれくらい言わないと名前は気付かないんだよ。
これくらい言ったって多分気付いてくれない。

そもそも名前が青道なんかに入るからいけないんだ。

昔から俺たちはいつも一緒だったから、何も疑うこと無く名前も稲実に進学するんだと思ってたのに。
中三の進路決定のとき、名前は青道を選んだ。
何で青道なんだと聞いたら
野球が強いから、と言った。
それなら稲実でもいい筈だって言えば、青道なら寮に入らなくても通えるし制服も稲実より可愛いからとばっさり切られた。



「名前が青道になんか入らなければよかったんだ」
「鳴・・・」


少しの沈黙の後溜息を吐いたのは俺でも名前でもない一也だった。


「名前、俺達この後ミーティングで一時間は戻らないから。貴子先輩には上手く言っとく」
「いいの?」
「おう。一時間のうちにその馬鹿エース追い返せ」
「む、馬鹿エースって誰の事だよ」
「お前しかいないだろ。つうか、いつまでも鳴ちゃんと一緒の名前ちゃんじゃねぇんだよ。名前が何で青道を選んだのかちょっとは考えろ」


去り際の一也の言葉が予想外に深く突き刺さった。
どうゆう意味だよ。
名前が青道を選んだ理由なんて二年前にとっくに聞いてる。
それ以外の理由があるって事か?

ふと名前の顔を見れば困ったような顔をしていた。
そんな顔をさせているのは俺なのか?
もしかして名前は、



「俺から離れたくて青道を選んだ・・・?」


驚いたような名前の表情。
今の俺には肯定の表情としか捉えられない。


「違うよ。だけど・・いつまでもずっと鳴と一緒にはいられない・・・いつまでも鳴のお姉ちゃんではいられないよ」
「なんだよそれ」


確かに俺達は幼なじみで姉弟みたいに育ってきたかもしれない。
だけど俺は一度だって名前をお姉ちゃんみたいだなんて思ったことは無い。


「鳴はこれから先もっと凄い人になって有名になるんだもん。それなのに私が傍にいたら彼女だって出来ないよ?」
「そんなのいらねぇよ。俺は名前がいればいいんだよ!」


細い肩を掴んでそう伝えてみてもいまいち伝わってないようで、そのまま名前の体を抱きしめた。
こうするのはもう10年振りくらいかもしれない。
すっかり女の子の姿になった名前の体を更にぎゅっと抱きしめる。


「ここまでしたら分かるでしょ。俺は名前が好きなの!!」


いくら待っても返事どころか反応すら無い。
痺れを切らして顔を覗き込んでみれば、そこには顔を真っ赤にして硬直する名前がいた。


「名前?」
「・・・・ぅ、ぅん・・」
「俺の言った事通じた?」
「・・・・・・・ぅん」
「じゃあ名前はどうなんだよ」
「!・・・・っ」


やばい、超可愛い。
益々赤くなる名前が可愛くてもっと虐めたくなる。


「ねぇ、名前は?・・言わないとちゅうするよ」


名前の腕を強く引いて校舎の陰に隠れたのを良いことに、ずいっと名前の顔に近付く。


「ほら、早く言わないと。3、2、1・・」
「・・・すきっ」


目の前で小さく動いた唇。
少しだけ潤んだ瞳は、緊張が極限に達したときの昔からの名前の癖だ。
言わなきゃちゅうするって言ったけど、言われたら言われたで我慢出来なくて。
やっぱりそのままその唇に触れた。


「ごめん、ちゅうしちゃった」
「鳴の嘘つき」
「だって俺の彼女可愛いんだもん」
「彼女・・・」


彼女という言葉を噛み締めているらしく、また顔を赤くして今度は笑顔を浮かべている。


「ライバル校のエースが彼氏なんてみんなに怒られちゃうかな?」
「かもね。じゃあ・・・ここには来ないようにする。名前が悪く思われるのは嫌だから」
「鳴・・・うん・・でも・・・たまぁにならいいよ?」
「ほんと!?」
「うん。だって・・私だって鳴に会いたいから」


そう言ってふわりと笑った名前。

ライバル校のマネージャーである彼女に同じこの場所で冒頭と同じように怒られるのは、それから一週間後のことだった。




懲りないエース
(だってやっぱり会いたいじゃん!)


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三万打記念、沙耶様リクの成宮夢でした。

幼なじみで青道マネのヒロインという設定をいただいたのですが、いかがだったでしょうか。
鳴ちゃん、私の中ではすごく書きやすくて優秀な子です。
どうしても甘えたキャラが定着してしまって格好いい鳴がいつも書けないのです(^_^;)
いつか腹黒鳴ちゃんも書いてみたいものです。

沙耶様、完成までお時間をいただいてすみませんでした。
このようなもので恐縮ですが、お気に召していただければ幸いです。
沙耶様限定でお持ち帰り可とさせていただいておりますので、よろしければお持ち帰りくださいませ(^O^)

この度は三万打企画にご参加いただき、ありがとうございました!
また、日頃よりサイトへお越しいただき本当にありがとうございます。
れからもTRAIN-TRAIN!!と小鳥遊をよろしくお願いいたします!

2011/06/23 小鳥遊 隼斗




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