▼ もも様へ 三万打記念リク 名前がいない。 朝のグラウンド整備。 いつもなら一年と二年の部員に混ざって整備を手伝っている名前の姿があるのだが。 今日はどこを探してもその姿が見当たらない。 「倉持、名前はどうした?」 「それが珍しく来てないんですよ。純さんも何も聞いてないんですか?」 同学年で名前と仲の良い倉持に聞いてみたが、倉持も知らないようだった。 いつもならもうとっくに登校していて良い時間だ。 連絡をしてみようかと思ったとき、ズボンのポケットで携帯電話が震えた。 メールを知らせるそのリズムに携帯電話を取り出すと、サブディスプレイに映る送り主の名前は今正に行方を案じていた名前だった。 『今日風邪でお休みします』 メールを開いてみると、いつもは必ず付いてくる筈の絵文字が今日はひとつも付いていない。 その短かい名前からのメールに相当つらいのだろうと察することができる。 くそ、練習が無ければお見舞いに行ってやれるのに。 生憎今日はオフ日ではない。 ゆっくり休めと返事を打って送信ボタンを押す。 打ちたいことは山ほどあったけど、具合が悪い所に長文のメールを送るのは気が引けた。 それにしても短すぎたか、と少し考えながらも携帯電話をパタリと閉じた。 あれから教室へ行っても授業中も、どうしたって名前のことを考えてしまう。 今まで名前が風邪で学校を休んだことなんてあったか? 確かあいつの家は親が共働きだったはずだ。 家に一人でいるんだろうか。 「ねぇ、純」 「あ?」 「もうお昼休みだけど?」 亮介の言葉に顔を上げると時計はとっくに昼を過ぎていた。 やべぇ、四限のノート何も取ってねぇ・・・ 「そんなに心配なら電話してみればいいのに」 「寝てるとこ起こしたら悪ぃだろ」 「やっぱり名前の事考えてボサっとしてたんだ」 にっこりとした笑顔を向ける亮介に舌打ちをしながらも、発信履歴から名前の名前を引っ張り出してみる。 だけどやっぱり通話ボタンを押すのは躊躇われた。 「風邪の時って心細かったりするから喜ぶと思うけど」 「・・・・・・・・・・・」 「一人なら余計寂しいだろうなぁ、名前」 「・・・・・ちょっと散歩してくる」 「名前によろしくね」 結局亮介の思い通りに動いているのが何となく悔しくて、散歩だなんてバレバレの理由を付けて教室を出た。 教室から程遠くない渡り廊下のベンチに腰掛け、さっきから開いたままになっていた画面を確認して通話ボタンを押す。 暫くしても出なかったら諦めよう。 コールの音を耳にしながらそう思った。 『・・・はい』 何度か鳴ったコールの音が途切れた後に聞こえてきたのは、いつもより掠れた名前の声。 やっぱり寝ていただろうか。 「俺だ。風邪、大丈夫か?」 『うん、だいぶ良くなりました。今ご飯食べて薬飲んだとこです』 「そうか」 『純さんは?どうしたんですか?』 熱はどれくらいなんだ、とか 痛いところは無いか、とか 苦しくないか、とか 聞くことなんて沢山ある筈なのに。 いざ電話をしてみたら、それくらいしか言えなくて。 あぁ、そうか。 「名前の声聞きたかった」 俺が、聞きたかったんだ。 だって名前の声を聞いただけでこんなにも安心している。 『私も、純さんの声聞きたかった・・です』 くぐもった小さな声だったけど、確かにそう言った。 名前の恥ずかしがる顔が脳裏に浮かんで、思わず口元が緩む。 『お昼一緒に食べる約束してたのにごめんなさい』 「気にすんな。治ったらまた食えばいいだろ?」 『明日はちゃんと行きますから』 「大丈夫なのかよ。熱まだあるんじゃねぇのか?」 『熱はもう殆ど下がりました!あ、でも皆に移るといけないからマスクはしていくけど・・・』 でっかいマスクしてる彼女とご飯なんて嫌かと聞く名前に、そんな訳あるかと言ってやれば安心したような声を出した。 『マスクは外せないけど、それでも早く純さんに会いたいの』 いつもと違う少しだけ鼻にかかったその声が余計に俺をどきりとさせて、無性に名前に触れたくなった。 「んな事言うと明日会ったときキスするからな」 『え!?なんで!??だ、駄目です!!』 「嫌なのかよ」 『嫌じゃないです!・・ぅあ・・・』 きっと電話の向こうで、熱で赤い顔を更に赤くして慌てているんだろうと考えると可笑しくて仕方なかった。 『もう、からかわないでくださいっ』 思わず笑い声を漏らすと、電話の向こうから拗ねたような声が聞こえてきた。 そんな声すら可愛いくて、更に緩む口元を手で覆い隠した。 『もうすぐ昼休み終わっちゃいますね』 「ん?あぁ、そうだな・・。午後もしっかり寝てろよ」 『はい、明日に備えてちゃんと休みます』 言葉の終わりにこほこほ、と咳をする名前。 本当に明日は大丈夫なんだろうか。 そんな心配をしながらも、昼休みの終わりを知らせる予鈴が鳴ったのを聞いて仕方なく名前との電話を切った。 「純、にやついてるよ」 「んな顔してねぇ!」 電話を終えて教室に戻るなり亮介にそう言われ、反抗してみたものの絶対ににやけていないと言い切れる自信はなかった。 照れ隠しで少し乱暴に席に着くと、さっきまで名前と繋がっていた携帯電話を取り出して、おやすみ、と一言だけメールを打った。 送信が完了したのを見届けて制服のポケットに携帯電話をしまい込み、午後の授業に取り組む。 昼前より落ち着いた気分でいられるのは、名前の声を聞いたからなのかもしれない。 次の日、宣言通りマスクをして登校してきた名前。 移るといけないからと頑なにマスクを外さない名前に、仕方なく額にキスを落とした。 白いフィルム紙の奥に隠されてしまった柔らかい唇に触れられるのは、どうやらもう少し先みたいだ。 アイミスユー (きみのいない一日は、うんとながく感じた) ---------------------- 三万打記念、もも様リクの伊佐敷夢でした。 年下ヒロインの甘甘を心がけたのですがいかがだったでしょうか・・・ まだまだ甘さが足りなかったですかね。 でも純さんはこれでもヒロインの事が大好きなんですよ。 純さんはもっと吠えてるようなキャラだと私の中で勝手に認識しているのですが、あまり吠えすぎたりデレすぎるとギャグになってしまいそうだったので、今回は大人しめにしてもらいました(^_^;) もも様、完成までお時間をいただいてすみませんでした。 このようなもので恐縮ですが、お気に召していただければ幸いです。 もも様限定でお持ち帰り可とさせていただいておりますので、よろしければお持ち帰りくださいませ(^O^) この度は三万打企画にご参加いただき、ありがとうございました! また、日頃よりサイトへお越しいただき本当にありがとうございます。 れからもTRAIN-TRAIN!!と小鳥遊をよろしくお願いいたします! 2011/06/17 小鳥遊 隼斗 [back] |