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みずき様へ 三万打記念リク




いつも気になっていた。
凛とした表情も、その瞳が何を映しているのかも。

ただ、俺には敢えて踏み込むような勇気は無いから。
いつも遠くから彼女の姿を眺めていた。



二年生に進級してすぐのまだ落ち着きの無い教室では、クラス委員やら委員会やらが次々と決められている。
さすがにクラス委員は先生の推薦で決まったけれど、委員会はくじ引きで決めるらしく、さっきクラス委員になったばかりの女子がくじの入った袋を俺の前に差し出した。
片手を突っ込んで一片の紙を取り出すとその場で開票する。


あ・・・・・・・


開いた紙に書かれていたのは

『図書委員』

一番最初に頭を過ぎったのは、彼女の顔・・いや、正しくは図書室の窓からいつも外を眺めている彼女の姿だった。
好きなのか、と聞かれればそうでは無いと思う。
好きだと思う程、俺はまだ彼女を知らない。
でも、知りたいと思ったのは事実だった。
図書委員になれば彼女を少し、知ることが出来るかもしれない。


初めての図書室当番は図書委員のくじ引きを引いた日から二週間後だった。
同じく図書委員に選ばれたクラスの女子と図書室に向かう。
一週間の当番制で図書室の受付や本の整理をするのが主な仕事で、大半は座っているだけだと前任の奴に聞いた。
練習に遅刻してしまうのがネックだな、と思いながらも図書室のドアを開けて一番に探したのは彼女の姿だった。


居た。

彼女は窓際のソファに腰掛け文庫本を読んでいた。
自分でも息を呑んだのがわかった。
肌は抜けるように白く、膝より少し上丈のスカートからのぞく足や、ページを捲る指は細く長い。
遠めに見るよりすごく綺麗だ。
上履きのラインの色から三年生だと知った。
受付カウンターからつい彼女を凝視していると、ふと、上を向いた彼女と目が合って慌てて視線を逸らした。

ごくたまにしか来訪者の訪れない図書室には空調の音と彼女のページをめくる音が響いていた。
受付は話に聞いていた通り暇だ。
ちらりと横を見れば、ペアの女子は携帯のゲームに没頭している。
頬杖をついて何気なく手元にあったバインダーに目を落とすと、そこに挟まれていた図書室の入退室管理簿が目に入った。
今日の日付で一人、名前が記入されている。


3-C 苗字名前


流れるような綺麗な文字で書かれたそれが、彼女の名前みたいだ。
苗字先輩、か。

次の日も苗字先輩は下校時間近くまでただ黙々と本を読んでいた。
そういえば、昨日も今日も窓の外を覗く姿は見ていないな。


三日目の図書室当番。
ペアの子は風邪で休みらしく、一人で図書室のドアを開けた。
相変わらずしん、と静まり返る室内。
奥に目をやるといつもと変わらず窓際の特等席に彼女がいるのを見つけた。
受付カウンターに着き、バインダーを眺める。
昨日と同じ綺麗な字が綴られていた。




「今日はひとりなの?」
「・・へ・・・?」


思わず素っ頓狂な声が出た。
今のは彼女が俺に対して投げかけた言葉だよな?
聞き間違いかと思うくらい唐突だった。
だけど彼女はにっこりと笑ってこっちを見ている。


「あ・・もう一人は風邪で休み・・・です」
「そうなんだ。一人でもちゃんと来るなんて偉いね」
「え、いや、まぁ・・・」


突然の事に対応しきれていない俺を余所に、苗字先輩は本を閉じて特等席からカウンターへ移動してきた。


「川上くん、お話ししようよ。折角だから」


にっこりと笑った彼女の笑顔にどきりとする。
俺の名前・・知ってるんだ。


「あ、私3-Cの苗字って言います」
「あ、知ってます」


俺の言葉に少し驚いた顔をした彼女に管理簿見たから、と付け足すと成る程、と笑った。


「あの、苗字先輩はどうしていつも図書室にいるんですか?」
「図書部なの。私」
「図書、部・・・?」
「あ、いま地味ーって思ったでしょ?」
「え、いや、そんなことは」
「ほんとにぃ?」


慌てて頷く俺を見て、彼女は楽しそうに笑った。
苗字先輩は俺が想像していた以上に明るく、そして可愛らしい人だった。


「まぁ、図書部なんてただ本読むだけの地味ーな部活だけどね」
「そんな‥図書部が地味だって言うならほら・・・俺だって地味ですし」
「そんなことないよ」


苗字先輩の凛とした声に上を向くと、彼女は真っ直ぐに俺の顔を見ていた。
その表情は至極優しい。


「私がいつもここから何を見てきたか知ってる?」
「え・・」
「川上くんは努力家で、すごく強い人だと思う」


彼女の綺麗な笑顔に顔が熱くなるのが分かった。


「いつも見てればわかるよ」
「あ・・ぇ・・・いつも、ここから見てたのって・・・」
「あ、バレてたか」


そう言って悪戯そうに笑う苗字先輩の笑顔に、また新たな彼女の一面を見つけて胸が暖かくなる。


「ねぇ、私もみんなみたいにノリくんって呼んでいい?」
「じゃあ俺も・・名前先輩、て呼んでいいですか?」
「もちろん!」


彼女のとびきりの笑顔と共に、窓からふわり、春風が舞い込んだ。


何かが変わる気がした。
この人の為に、自分の為に、
もっともっと自信が欲しい。
もっともっと、強くなりたいと思った。




フェアリーガール
(もっともっと、あなたに近づきたい)







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三万打記念、みずき様リクのノリ夢でした。

大変お待たせいたしました。
年上ヒロイン設定のリクをいただいたのですが、上手く活かせていたでしょうか。
内容的に詰め込みすぎた感がありますが・・・

このようなもので大変恐縮ですが、お気に召していただければ幸いです。
みずき様限定でお持ち帰り可とさせておりますので、よろしければお持ち帰りくださいませ。
この度は三万打企画にご参加いただき、ありがとうございました!
また、日頃よりサイトに足を運んでいただき本当にありがとうございます!
これからもTRAIN-TRAIN!!をよろしくお願いいたします。

2011/05/05 小鳥遊 隼斗




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