短編 | ナノ

明日からもそばにいて




あの瞬間、俺の世界の終わりが来た。



頭上を過ぎていった一線。


嘘だと、何度も心の中で叫んだ。






嘘だ

嘘だ嘘だ嘘だ



目の前で広がる光景はさっきまで思い描いていた、自分たちのものになると信じた未来。
現実を認めるには短すぎる、一瞬の出来事。


整理などつく訳がなかった。
全員が涙でぐしゃぐしゃなままバスに乗り込み、学校へ戻る。







涙が止まらない。
止めたくもない。

バスの中は嗚咽と鼻を啜る音だけが響く。
学校に到着しても誰もが言葉を交わす事も無く、部屋へと篭る。
バッグを引きずり、寮には戻らずふらふらと隅まで歩くと校舎の壁に寄り掛かる。
ずるりと落ちる体。
そのままそこに蹲り、頭を抱えた。


何をどうしたらいいのか分からねぇ。
すぐに涙が地面を濡らした。




「くっ・・・うぅ・・っ・・・」






随分長いことそうしていたのかもしれない。
けれどやっぱり涙が収まることはなかった。








じゃり..


近くで聞こえた地面を踏み締める音。
低い視界に入ったのは茶色のローファーに紺のハイソックス、細く白い足。
その傍らにどさりと落とされたバッグ。



名前だ。



名前は構うことなくしゃがみ込み、立て膝で俺の頭ごと抱きしめた。
その暖かな温もりに包まれて、また涙が溢れる。





「っ・・・悪ぃ・・・・負けちまった・・っ」


そう言葉を吐いても、名前からは何の言葉も返ってこない。
なんで何も言ってくんねぇんだよ。
どうして。
そう思って暫くぶりに上げた顔の先に見たものは


色が変わるくらい唇を噛み締め
小さく震える名前の姿だった。



そう、泣いてはいけない、と言わんばかりに。




あぁ。

今にも零れ落ちそうなほどに涙を溜めたその瞳を


震える肩を



守ってやらなきゃいけないのは俺なのに。





俺はユニフォームの袖口で自分の涙を拭うと、名前の体を抱き締め返した。


もう俺は泣かないから
大丈夫だからと。






「ごめん・・・・負けてごめん。ありがとう」
「・・っう・・・っ・・」


野球ばかりに夢中な俺をいつも応援してくれて
着いてきてくれてありがとう。


どうか

明日から高校球児ではなくなる俺を



どうか見捨てないで。





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