短編 | ナノ

1番ショート 倉持くん 背番号6




テスト前で練習が休みだから放課後みんなで勉強しようなんて話になったが。
最初残っていた面々はデートやらバイトやら、一人また一人と帰って行き最終的に教室に残ったのは俺と名前だけだった。

俺と向かい合わせにした机に座る名前は紙パックのマスカットティーに挿したストローをくわえながら、パラパラと雑誌を捲っている。
数学の教科書とワークブックはもう随分前から机の隅に追いやられていた。
最早ここにいる意味はあるのかと疑問に思うが。




「倉持ってさー・・・」
「あ?」


名前は雑誌に目を落としたまま話し出す。
その声に俺は読んでいた漫画から顔を上げた。


「坂本クンと被りすぎじゃん?」
「は・・?坂本クンって誰だよ」
「坂本クンだよっ。名前ちゃんイチオシの坂本クン!」


そう言って見せられたページには某プロ野球チームの若手イケメン選手と騒がれる男の姿があった。


「坂本クンて1番バッターでショートで背番号6じゃん」
「そんくらい他にもいるだろ」
「甘いな倉持クン。まだあるのよ」


名前はふふん、と得意げな表情でずいと体をこちらに乗り出した。
近いって。


「坂本クンて、中学の時ヤンチャすぎて地元で野球推薦もらえなかったんだって。それで県外に野球留学したらしいのよ」
「へー・・・」
「どこまで倉持!みたいな。ね、似てるでしょ」
「まぁ・・」
「あ、でも倉持に似てるなんて坂本クンに失礼すぎた!坂本クンはイケメンだし、長身だし、スターだし!」


こいつ・・・
別にイケメンとか言われたいわけじゃないけど、このわざとらしい態度がむかつく。
いまだ雑誌の中の坂本クンに夢中な名前。
俺はその読み途中の雑誌をバサリと閉じてやった。


「ちょ、なにす・・」
「お前、来週の練習試合見に来い」
「練習試合?」
「・・・坂本クンよりカッコいい姿、見せてやんよ」


鞄を手に立ち上がり名前を見下ろせば、口をぽかんと開けてこっちを見ている。


「ヒャハハ!すげーアホ面」
「・・は!し、失礼なっ」


ふん、と横を向いた顔が少しだけ赤かったのは、きっと気のせいじゃないと良いように解釈してしまおう。


「ま、まぁ、倉持がどうしてもって言うなら行ってやらないこともないけど!」
「ヒャハっ、どんだけ偉そうなんだよ」
「うっせ、だまれ」
「じゃ、絶対来いよ」


ひらひらと手を振り教室を後にする。



今日の自主トレから素振りの回数を増やそう。
走塁練習も念入りにしよう。

なんて、廊下を歩きながら考えた。


坂本クンなんか、考える余裕無いくらいにしてやろうじゃないか。





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