▼ 言葉が飛び出す前に この前の放課後から既に一週間が経っていた。 あんな事を言って俺を舞い上がらせた名前はあれからいつもと何も変わらぬ様子で接してきて、俺は困惑していた。 やっぱりからかわれたのか? 分からねぇ・・・ 御幸はそんな俺の姿が面白いのか、にやにやと笑ってやがる。 分からねぇ。 どうしたらいいんだ。 「はぁ・・・」 「・・・それ、どうしたの?」 「ん?」 溜息をついて廊下を歩いていると、後ろから声を掛けられた。 振り向くとそこには今まさに考えていた名前の姿があった。 視線はじっと、俺の右手に提げられた小さなビニールバッグを捕らえている。 「これか?」 「隣のクラスの子にもらったんだ?さっきの時間、調理実習してたもんね」 「いや、これは・・」 確かに隣のクラスの女子に貰ったには貰ったんだが・・・ 説明をしようとしたけど、目の前に立つ名前の瞳から涙が溢れそうなのを見てぎょっとした。 「倉持のばか!!」 「おい違っ、待てよ!」 走り出した名前を追いかける。 くそ、あいつ以外と足速ぇな。 屋上に繋がる階段の途中でやっと腕を捕まえた。 「待てって」 「どうして・・」 「え?」 「どうしてなにも言わないの・・・?どうして他の子からそんなの受け取るの?」 「・・・・・・」 「私は倉持が好きって言ったのに!」 階段の段差のせいで俺と同じ高さにある名前の瞳からは、ぽろぽろと涙が零れていた。 「バカ!鈍感!!倉持なんて、倉持なんて・・っ」 今にも飛び出してしまいそうな言葉を止めたくて、名前の唇を塞いだ。 「嫌いなんて言わせねぇ」 唇を離すと目を見開いて、真っ赤になってる名前がいた。 「この前はすげぇ突然で・・焦って、嬉しくて・・・でも次の日名前はいつも通りで・・・」 頭ん中が混乱した。 やっぱからかわれただけなんじゃないかと不安になった。 「倉持の答えを待ってたんだよ」 「気付くの遅くて悪ぃ・・」 「うん。しかもそんなのまで受け取ってるしさ」 名前の視線の先には、さっき俺が受け取ったビニールバッグ。 「違ぇよ。これは御幸に渡してくれって頼まれたんだ」 「へ・・・?」 「よくあんだよ。こうゆうの」 知り合いの女子から仲が良いんだから渡してくれ、と押し付けられたこのビニールバッグ。 こいつが名前を勘違いさせた原因だ。 「なんだ・・そうだったのか」 「まぁ、そのおかげで名前が案外やきもち妬きだってわかったけどな」 「だって・・・焦ったんだよ」 そう言って目を伏せた彼女に、あぁ、もうこんな顔をさせたくないと思った。 乙女心が分からないと言われた俺なりに、名前を大事にしたいと思った。 「それ、渡しに行こっか」 「あ?」 「御幸。文句言ってやる」 「ヒャハ!そうだな」 教室に戻るために歩きだした手を握ってみれば、名前は嬉しそうに笑った。 [back] |