短編 | ナノ

たしかな証




春が過ぎて


夏がきて。



袖からのぞくきみの腕は今年も真っ黒に日に焼けている。






夏の予選真っ只中。
青道スタンドは夏休みに入った事で一段と応援に駆け付ける生徒で賑わっていた。


「御幸くーん!頑張ってー」
「御幸センパーイ!」


一也に寄せられる沢山の黄色い声。
その沢山の声が何の取り柄もない私の存在を消してしまいそう。
じりじりと太陽が照らす中、私はメガホンを握りしめ俯いた。





試合は青道高校が勝ち上がり、スタンドは歓喜に湧いた。


「御幸くん、会わなくていいの?」
「・・うん。またすぐ学校に戻ると思うし」


友人と応援に来ていた私はスタンドを出ると、球場の出口へと歩き出した。
球場の周りは青道の生徒や、次の試合の学校の生徒たちで込み合っていた。
がやがやとする人混みの中。


「名前!」


後ろから大好きな声がして振り返る。
その先には、向こうからユニフォーム姿のまま走ってくる一也がいた。
周囲の目なんてお構いなしに、目の前まで来ると私の手首を掴んだ。


「一也・・・!」
「ちょっと、名前借りてくね」
「もちろん」


そのまま手を引かれて歩きだす。
後ろを振り返ればにっこりと笑顔で手を振る友人の姿。



しばらく歩き、人気も疎らな場所で立ち止まる。


「お前何やってんだよ」
「ぇ・・・?」
「真っ赤じゃん!こりゃ火傷の域だぞ」


ぐい、と掴まれていた腕を持ち上げられる。
目の前に出されたのは真っ赤に焼けた私の肩と腕。

知ってるよ。
だって、わざと日焼け止めは塗らなかったの。


「気をつけろよなぁ・・」
「いいの。どんなに真っ黒こげになったって、私は一也を応援するんだもん」


私の言葉に目を見開いた一也。
けれどその直後に指で額を弾かれる。


「いたっ」
「俺おまえの白い肌好きなんだからやめろよ。日焼け禁止」
「・・・・・・」
「そんなことしなくたって、分かってるよ」
「かずや・・・?」
「名前が俺の事誰よりも応援してくれてるの」




「あり、がと」
「なに泣いてんだよ」
「うー・・・涙が焼けた顔に染みるよぉ」
「お前ほんとばかだな」


一也は私の目元を指でそっと拭ってくれた。
土の匂いがする一也にぎゅっと抱きしめられる。



野球に打ち込んでるあなたの隣にいるって。
隣にいるのは私なんだって、確かな証がほしかったんだ。


そう言ったらあなたは笑うかな?




だけど。
一也に抱きしめられるこの瞬間が、
耳元で囁く言葉が、
何よりも私はここにいるんだ、て感じさせてくれたんだ。





『俺の隣には名前以外有り得ないし、名前の隣には俺以外有り得ないんだからな』





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