▼ 拍手02 あぁ、去年もこんなだっただろうか。 ぽっかり空いた大きな穴。 胸の辺りがすかすかする。 オレンジ色のナイターの明かり。 監督の声。 監督を囲むようにして半円を作る選手たち。 その輪は数週間前より一回り小さい。 真っ直ぐ前を見据えている者、下を向いている者、それは人それぞれで。 私は後者だ。 選手たちの輪から少し離れた所に整列するマネージャー。 横目で確認してみても、やっぱり足りない。 きりっとした綺麗な横顔はもうそこには無いんだ。 「「「っしたぁ!!」」」 グラウンドに響いたその声にびくりとして顔を上げれば、選手たちはぞろぞろと部室へと引き上げ始めている。 私はと言えば、何時までもそこから動くことが出来なくて一人じっと立ち止まっていた。 ゆっくりと誰もいないグラウンドを振り返ってみる。 黙々とバットを振り続ける主将の姿や、文句を言いながらもそれに付き合う三年生の姿はやっぱり何処にも無い。 その現実が寂しくて、寂しくて また涙が出そうになって強く下唇を噛んだ。 「何してんだよ」 後ろから聞こえた声に振り返れば、どろどろに汚れた練習着姿の御幸がゆっくりと歩み寄って来た。 「ひでぇ顔」 御幸の顔を見たら何でかもっと涙が溢れそうになって、更に唇を強く噛んだ。 もう視界は溢れ出しそうな涙でぐにゃぐにゃだ。 「唇、切れるぞ・・・」 目の前まで来た御幸は、硬く結んだ私の唇にそっと指を伝わせた。 緩んだ口元からは途端に声にならない泣き声が漏れ出す。 目の前はぐちゃぐちゃで、ほんとひどい顔をしていると思う。 「・・俺達は前に進まなきゃならない」 そんなこと、分かってるよ。 分かってるけど・・ 夏が始まる前に戻りたいって、お願いだから戻って欲しいって思っちゃうんだよ。 私はそんなに大人じゃないから、未だにこの現実を上手く飲み込めずにいた。 まるで子供のように大泣きする私を呆れることなく宥めてくれる御幸。 大きな御幸の手が、私の手を力強く握り締める。 「お前がひとりで歩けるまで、俺が引っ張ってってやる」 「・・・本当?」 「大丈夫。離したりしねぇよ」 上を向くと、力強く、でも優しい笑顔を浮かべる御幸がいた。 キャプテンとしての御幸を垣間見た瞬間、ナイターの明かりが落ちた。 片付けをしていた一年生が消してくれたんだろう。 目の前は真っ暗で、何も見えなくなった。 だけど、御幸だけは 御幸の繋いでくれた手は はっきりと見える気がした。 この手があれば、私は前を向くことが出来るのかもしれない。 ひとすじのひかりがみえた [back] |