短編 | ナノ

高鳴る心音が煩い




真田俊平

テストの問題用紙の裏にシャープペンで書いたその文字をそっと人差し指でなぞりながら、頭の中で呼んでみる。


さなだ、しゅんぺい・・・


文字を見ただけでこんなにもどきどきとする。
ちらりと横を盗み見てみれば、既にテストを終えた隣の席の真田くんは自分の腕を枕にしてすやすやと寝ていた。

テスト中の教室はしん、と静かで、たまにカリカリと答案を書き込む音や誰かが鼻をすする音がやけに響く。
テスト終了時間まであと8分。
この時間が終われば今日の日程は終了。
いつもなら早く終わってほしいテストも、今はもう少しこのままでいたいな。
机に突っ伏して寝たふりをしながら、真田くんの寝顔と向き合ってみる。


寝てる時でもかっこいいんだ。

起きている時じゃこんな近くでまじまじと見ることなんてできないから、ここぞとばかりに観察してみる。
整えられた眉に長い睫。
すっと通る鼻筋に形の良い唇。

真田くんの彼女になれる子は一体どんな子なんだろう。
真田くんの彼女になれるなんて、世界一幸せなことだろう。
私がもっともっと可愛くて、もっともっと素直な子だったら彼の隣に並ぶ事ができたのかな。
そんな夢のまた夢のようなことにぼんやりと思いを馳せながら、一度瞼を閉じてみる。


テスト終了時間まであと少し。
最後にもう一度、真田くんの寝顔を焼き付けておこう。
そう思って目を開けたら、数十センチ先にある真田くんの優しい瞳と視線がぶつかる。
びっくりして思わずがたりと音を立ててしまった私に、真田くんは口元で人差し指を立てながら、静かに笑った。


いつから起きてたんだろ・・・

机の上にある、真田くんの名前を書いた問題用紙をそっと隠す。
隣からコンコン、と小さな音がして横を向けば、真田くんが自分の問題用紙の隅っこをシャープペンで指している。
何か文字が書かれているみたい。
少し背筋を伸ばすと目だけ動かしてその文字を覗いてみる。



『さっきなんで俺のこと見てたの?』


その文字に絶句した。
慌てて咄嗟に首を何度も横に振ってしまったけど・・きっとばればれだよね。
あぁ、もっと可愛い反応ができるような女の子になれたら良かったのに。

真田くんは机に向き直ると、また問題用紙に何かを書き込み、私の見える位置まで用紙をずらした。


『じゃあ、俺はいつから見てたか知ってる?』


・・いつから?
少なくとも私がテストを終えたときには寝てたはず・・・


『3分前くらい?』


真田くんと同じように端っこにそう書いて見せたら真田くんは笑ってまたペンを走らせた。


『ばーか、一年生の時からずっとだよ』


え・・・一年生・・?
え・・・!?
見てたって・・・
見てたってどういう意味?
もしかして私が真田くんを見てた"見てた"と同じなの?
でもまさか・・もしかしてからかわれてる?

爆発しそうな思考回路でたくさんの事を一遍に考えた。
たぶん今の私の頭ん中はテスト問題を解くときより遥かに早いスピードで回転してる。



『顔真っ赤!』


私がぐるぐるといろんな事を考えている中、更に差し出された文字。
真横を向けば笑顔の真田くん。
それは私の大好きな、大好きな、真田くんの笑顔。



テスト終了時間まであと2分。
チャイムが鳴った時、真田くんになんて言葉を掛ければいいんだろう。


どきどきは全然収まらなくて、制服の胸の辺りをぎゅっと掴んで何度も深呼吸をした。



そうだ。私もずっと見てたよと
伝えよう





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