短編 | ナノ

はろー、ダーリン




んむぅーっ・・

くっ・・・


・・・届かない。
棚の上に置かれた救急箱に手が届かない。

誰だよ、あんなとこに置いたの。
あれを管理してるのはマネージャーなんだからもう少し低いとこに置いてよね。
つうか定位置に戻せっ。

うちの部員はとにかく気が利かない奴が多いと思う。
マネージャーが女子として見られてないって可能性もあるが・・・
部員の中で私が認める紳士はクリス先輩くらいなもんだ。
御幸も気は利くけど・・なんせ軽い。
そして打算的。


あぁ、もうこれは椅子に乗るしかないか。
ここの椅子は不安定だからあんまり乗りたくないんだよな。
・・・以前、落ちた経験があるんです。

テーピングのロールをくるくると指で遊ばせながら溜息をついたとほぼ同時にタイミングよく開いたドア。


「お、名前」
「倉持!!いいところにー!ね、あれ届く?」
「あ?・・お前そんなのも取れねぇの?」


私の指差した方を見上げた倉持は鼻で笑いながら、バッグを雑に放り投げるとずかずかと歩いてくる。
そしてそのまま、さっきまで私が指先すら掠ることの出来なかった救急箱をひょいと取ってしまう。

背後から伸ばされた腕は私の頭のはるか上。
振り向けば倉持の肩口はすぐ触れてしまいそうな距離。




どきん



あれ、



「おら」
「あ、ありがとう」


倉持ってこんなにおっきかったっけ?
他の部員と比べるとそんなに背が高い方じゃないから、錯覚してた。
私と並ぶとこんなにおっきいんだ。
見上げた倉持はいつもより逞しく見えて、いつもよりかっこよく見えた。


何故だか覚束ない手つきで救急箱にテーピングを放り込み、定位置に戻す。
もう一度そっと後ろを振り返ってみると、椅子に座ってる倉持はやっぱりいつもの倉持だった。

・・・やっぱり見間違いだよね、うん。


「帰んぞ」
「うん、じゃあね」
「違ぇよ。送ってく」


もう遅ぇだろ、て言って二人分のバッグを持ち上げた倉持の腕はやっぱり逞しくてまた胸が騒ぐ。
私の先を歩く少し腰に下げた制服のズボンも、筋肉質な背中も、そのすべてがかっこよく見えて。



あぁ、いま私はこの瞬間、目の前の倉持に恋をしたんだ。



それは彗星のごとく現れた




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