▼ 75番は俺のもの いつもよりごみごみとした校舎内。 その人込みの中には生徒だけでなく、普段ならばいるはずのない一般の人も混じっている。 なぜかって、今日は青道の文化祭だからだ。 一般公開の今日は大勢の人々で賑わっていた。 「ぁ、御幸じゃん」 「お、名前」 クラスの手伝いから抜け出して一人歩いていた俺の前に現れた名前は、自分のクラスのカフェを宣伝するボードを持ちながら、首から提げた半分に割られたハートの片割れのプレートをぷらぷらとさせていた。 「宣伝係やる気ねぇな、おい」 「だって一人とか恥ずかしいじゃん・・ぁ、御幸それ参加したんだ」 「ん?あぁ・・亮さんに無理矢理な」 「はは、私も同じく」 二人して首から提げた段ボールで出来たハートが半分になったプレートを手で持ち上げた。 これは亮さんのクラスの出し物で、プレートにはそれぞれ番号が書かれいる。 その同じ番号の片割れを持つ異性を文化祭中に探し出しカップルになろう! というのがイベントの主旨だ。 亮さんのことだから名前が参加してると知れば参加者が増えると狙ったんだろう。 ちなみに参加費は一人200円だ。 更に言えばちなみに、俺の番号は102で名前の番号は75。 くそ・・・ 俺以外の誰かが名前とカップルになる権利を持ってるということか。 まぁ、カップルと言っても擬似であって、記念写真を撮ったらそれでおしまいなんだけどな。 けれど毎年これ系のイベントをきっかけに付き合い出すカップルも少なくはない。 「一人とかかわいそすぎて見てらんねぇから付き合ってやるよ」 「ほんと!?御幸が居てくれたら心強い!」 嬉しいこと言ってくれるじゃないかと思ったら、これでお客さんも増えるだろうから安心、なんて言葉が聞こえた。 まぁいいんだ。 これで他の野郎どもを牽制することができれば。 「お、名前に御幸じゃねぇか」 「あ、こんにちは!」 しばらく二人でふらふらと歩いていると、哲さんと純さんに遭遇。 二人の首からもしっかりとハートのプレートが提げられていた。 「あ、哲さんたちも亮さんの餌食になったんすね」 「ん?あぁ、これか」 哲さんが自分の胸に掛けられたハートの片割れを手にする。 ん・・・・・? 「お、哲。お前名前と・・ 「あーっ!!哲さんダメですよ。それ俺の番号じゃないっすか」 「ん?」 「あ゙ぁ?」 「あれ?裏に名前書いてませんでした?まぁ、とにかくそれ俺のなんで」 半ば無理矢理に哲さんから『75』と書かれたプレートを奪い、ポケットに突っ込んでいたマジックを取り出すと裏側に『御幸一也』と書いてやった。 殴り書きみたいな汚い字で。 「つーことで俺ら、カップル成立したんで」 「む、そうか」 「おいコラ、御幸」 純さんにどやされる前に名前の手を握り逃げるように歩きだす。 人込みの中を縫うようにして歩いていると繋いだ手をくん、と後ろに引かれた。 「ねぇ御幸!それほんとに御幸のなの?」 「ははっ、そんなわけないだろ」 「じゃあダメじゃん」 名前の言葉に立ち止まり振り返ると、少しだけ強く手を握ってやる。 「お前が他の奴とカップルになるなんて許せねぇの」 「・・カップルって擬似じゃん」 「擬似でも。てか、俺はほんとのカップル希望なんだけど」 「・・ほ、ほんとの・・・?」 「名前の恋人になりたい。ダメ?」 「だ、だめじゃ・・・なぃ」 見る見るうちに赤くなっていった顔を持っていた看板で隠してしまった名前がぽつりと言う。 そんな名前の姿おかしくて、可愛くて、俺は看板を取り上げると思い切り名前を抱き締めた。 「じゃあこれでほんとに、カップル成立ってことで」 二人分のプレートを合わせてハートを作ってみせたら、名前は嬉しそうに笑った。 [back] |