▼ ポジティブシンキング 「名前ちゃーん!」 グラウンド端のベンチに腰掛けてさっき測定したベーランのタイムを纏めるため、データブックにペンを走らせる。 早く終わらせて監督に提出しなきゃならないのに。 向こうからやっかいな奴が走ってきた。 我が校の頼れるエース様だ。 まぁ、今のところ頼れるのは試合中だけだけどね。 「名前ちゃん、ドリンクちょーおだい!」 「鳴、ドリンクはあっち。自分で取ってきなさい」 「やだ。名前ちゃんから貰いたい」 「忙しいから無理」 「むぅー・・」 鳴は私の手元にあるデータブックを見て納得したのか、ぶうぶう言いながらドリンクを取りに行った。 かと思うと、ドリンクを掴みまたすぐこちらに戻ってきて私の座るベンチの空きスペースに座る。 「名前ちゃんてさぁ」 「んー・・・?」 「なんで野球部入ったの?」 最後の一人を纏めると、データブックをぱたんと閉じる。 隣に座る鳴は首に掛けたタオルで汗を拭いながら、ゴクゴクとドリンクを飲んでいる。 「好きだから」 「俺が?」 「・・あんた二年なんだから私が入部した時いないでしょうが」 「あ、そっか」 「うん。うち弟も野球やってるし父親もやってたから完全にその影響かな」 「へー・・え!てゆうか名前ちゃん弟いんの!?何歳!?」 「鳴のいっこ下だよ」 「おぉー、セーフ!」 「何が?」 鳴は心底ほっとした顔をして笑っている。 いったい何がセーフなのだろうか。 「だってさぁ、結婚したら弟になる筈なのに同い年ってなんか気まずくね!?」 俺弟が欲しいし、と付け足す鳴にぽかんと口を開けてしまった。 「え、誰が鳴と結婚すんの?」 「名前ちゃん!」 「は?」 「言っとくけどこれは決定事項だかんね!」 自信満々ににかっと笑う鳴。 付き合ってもいない相手との事をそんなとこまで考えられるなんて、なんて妄想力の激しい子なんだ。 でもそんな突っ走りすぎな彼と同じ風景を頭の中で描いてしまった私は 最早、同じく妄想力の激しい女になってしまったみたいだ。 [back] |