連載 | ナノ

君を手に入れたいと思った日 06



倉持くんにプリンを貰った夜から4日が過ぎていた。

今日は残業もなく、定時退社することができた。
陽が伸びて、まだ微かに明るい空を眺めながらゆっくりと自宅への道を歩く。
仕事帰りのはずなのに気分は清々しく、足どりは驚くくらい軽かった。
先週までの自分とはまるで別人のようだ。


右手には小さな紙袋。
中には小さめな紙の箱が入っている。
その紙袋を一度確認して、私はあのコンビニに立ち寄った。

倉持くんとは、あの日からまだ会っていない。
連絡先なんて知らないし教えてないから、今日あの子がここに来る保証なんてどこにもないのだけれど。


多分今日は会えそうな気がした。

もし来なかったら、これは私が処理してしまえばいい。
私の気まぐれで買ったものだから。







「名前!」


そんな事を考えていると前から倉持くんの声が聞こえて、顔を上げれば練習着のままの姿があった。


「よ、お疲れ!」
「お、おう」


なんだかどぎまぎした倉持くんに、私はどうしたのかと問い掛ける。


「いや、なんつーか・・・名前が待っててくれたってのがすげぇ嬉しい・・・」


そう言いながら照れ隠しのように口元を手で隠し、視線を泳がす。
こんな新鮮な反応をされたのはいつ振りだろうか。


「いやいや、この前のお礼、したかっただけだし」
「お礼?」
「そう。これ」


倉持くんの目の高さまで紙袋を持ち上げて前に突き出せばそれを受け取る。


「私オススメのお店のプリン!」
「まじで」
「まじ。・・・あ、野球部って甘いもの禁止とか?」
「いや、ねぇよ。むしろ俺の同室の先輩、プリン狂だし」
「部屋って何人?一応、3つ入ってるけど・・・」
「丁度3人」
「じゃあもしよかったらみんなで食べてよ」
「・・・・・・おぉ。さんきゅ」


最後の間が少し気になったが、にかりと笑う少年の笑顔につられて笑顔になる。






「この店、あの元カレも知ってんのかよ」
「知らないよ。話した事ないから・・・」


そこまで言いかけてはっとした。
こいつ今なんて言った?



元カレと言わなかったか?


ゆっくりと倉持くんの顔を確認すれば、してやったりの顔。
そう、私はあの日の翌日に倉持くんの予言通り恋人に別れを告げた。

恋愛ごっこに終止符を打ったのだ。


「・・・なんで分かったのよ」
「ヒャハハ!だって指輪してねぇし」


あ、確かに。


「それに・・・名前のその顔見たらすぐ分かるっつの」
「顔?」
「すげぇすっきりした顔してる」


毎日顔を合わせている会社の同僚の子たちは何一つ気付かなかったというのに。
この少年はどうしてこうも観察力に優れているのだろう。


「今の方が名前っぽくて良いんじゃね?」


そう言って笑った倉持くんの顔はいつもの少年の笑顔ではなく、どこか大人びたような笑顔で。
私はひどく驚いた。



この数日間で痛感したこと。

クソガキだと思っていたこの少年は、私が思っていたよりも少し大人だったのかもしれない。




消えた指輪と・・・



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