連載 | ナノ

君を手に入れたいと思った日 **



夏休みと言えば練習づくしで、たまのオフには寮でダラダラと過ごすかお盆に実家に帰るだけだった。
でも今年は違う。
去年は食べ物目当てで部員とうろついていた近所の夏祭りも今年は隣に浴衣姿の名前がいる。

生成り色の生地に赤と白、黒の大柄な花模様があしらわれた古風な柄の浴衣。
上品な花柄のそれは、目鼻立ちのはっきりした名前にとても良く似合っていた。

普段おろされていることの多い髪は前髪から編み込まれ纏め上げられ、白い項が覗く。
一目見た瞬間に込み上げてきた想いをぐっとこらえて名前の手を取って歩き出した。


「浴衣なんて学生振りかも。社会人になると中々機会がなくって」
「すげー似合ってる。かわいい」
「ありがとう」


下を向いたって編み込まれた前髪のせいでその照れた顔は丸見えだ。
何を食べようかと照れ隠しにはしゃいでる名前の横顔を眺めながら人混みの中を歩く。
人混みのせいか、歩きにくい浴衣のせいか、名前の体がいつもより近くに寄せられていることに気付く。
祭り会場は人の熱気で溢れ、息苦しい程の異常な暑さを感じていたが、そんな中でも名前とぴったり引っ付いて歩くのは苦ではない。

祭り独特の喧騒の中、暫く出店見て回り、名前が食べたがったかき氷の店の行列に並んでいると、握られていた手が突然ぱっと離された。
わざとらしくさっきまでとは逆の方向へ向いた名前に違和感を感じ、辺りを見渡す。

あぁ、原因はあれか。
少し向こうにうちの生徒の姿が見えた。
知り合いではないが顔に見覚えがある。
男女数人のグループで来ているらしく、こちらに視線を向けて何か話しているようだ。


「名前、手」
「でもほら…学校の子達いるみいだし、先生とかもいるかもしれないし…」
「いいから」
「でも」


躊躇う名前の声を遮って小さな手を引くと自分の方へ引き寄せた。


「俺と手繋いで歩くのは恥ずかしいかよ」
「そんなわけない!」


勢いよく顔を上げてそう言った名前は泣き出してしまいそうな顔をしている。
そんなことこいつが思うわけないって分かってる。
分かってて少し意地悪をした。


「じゃあしっかり繋いでろ」


耳元に唇を寄せてそう言えば、途端に真っ赤に染まる頬。

あー…クソ、まじで可愛い。

堪らず腕を引き、人混みから死角になりそうなところに名前を隠すようにして立つと少し強引に唇を重ねた。


「ん…」


両手を名前の耳の後ろに差し込むようにして頭を支え何度も口付ける。
名前が俺の服をきゅっと掴んだのが分かり、名残惜しさを感じながら下唇を舐めとるようにしてゆっくりと唇を離した。
少しだけ蕩けた瞳と濡れた唇が煽るように薄闇の中で俺を誘う。


「…は、えろ」
「ばか…!もう」


服を掴んでいた手が軽く俺の胸を叩いた。
その手を取ってそっと抱き寄せると、名前も俺の肩口に頭を寄せて凭れさせた。


「かき氷…また並ばねーとな」
「そうだよ…洋一のあほ、えろがき」


可愛すぎるのが悪い。

頬を膨らませて文句を言いながらも、俺から離れようとする素振りは見られない。
あと少し、もう少しだけこうしていたいと思っているのはどうやら俺だけではないらしい。
すぐ近く、背後に喧騒を感じながら、名前を抱きしめる手に力を込めた。



extra*07



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