連載 | ナノ

君を手に入れたいと思った日 **



俺の朝の日課。
それは朝の自主トレの合間に仕事へ向かう名前を見送ること。

それと最近はもう一つ。


「はい、お弁当」
「さんきゅ」


名前はにこりと笑って、バッグと一緒に手にしていた弁当の入ったトートバッグを俺に差し出した。
艶のある前髪から覗く大きな瞳にぷっくりとした唇。
今日も変わらず可愛い。

節約とダイエットを兼ねて、少し前から会社に弁当を持って行き始めた名前。
1人分も2人分も変わらないからと、毎朝こうして俺の分の弁当も届けてくれる。


「お弁当箱、洗ってくれなくていいよ?昼休み潰れちゃうでしょ」
「俺がやりたくてやってんだからいいんだよ。作って貰ってんだからそんくらいさせろって」
「そっか、ありがと」


俺の言葉に名前は眉を下げて笑顔を見せた。
俺の好きな表情のひとつだ。
朝から触れてしまいたくなる衝動をなんとか抑えて、淡い色のワンピースの裾をふわりと揺らして歩いて行く名前を見送った。



「はー、今日も美味そうな弁当」


昼休みに俺の弁当箱を覗き込んだ御幸が声をあげると、周りの奴らもつられて顔を寄せてくる。


「うっわ、まじだ。すげー美味そう!」
「俺のと交換してよー」


名前の作る弁当はいつも色鮮やかで、周りの奴らが食べている弁当よりもセンスのあるそれに、いつも優越感を感じている。
味だってもちろん美味い。


「美人で料理上手って、どこまで完璧なんだよ。名前さんって弱点とかあんの?」


購買で買ったパンをかじる御幸がしみじみと言う。
弱点…か。
弱点と言うべきか微妙なところだが、強いて言うなら甘え下手なとこくらいだろうか。
練習がきつい俺に気を遣いすぎて、話したいことがあったり会いたくても我慢していたり。
その癖顔に出やすいから無理してんのがバレバレなんだよ。
この前だってあいつの出張と俺の遠征が続いて一週間近く会えなかった時。
俺が疲れてるだろうからと言って会うことを躊躇っていた名前を押し切って会いに行ってみれば、泣き出しそうな顔して笑って俺を迎えてくれた。
あの時、俺の腕の中で縋るように擦り寄った名前を思い出してつい口元が緩んでしまう。


「うわ、ぜってーえろいこと考えてただろ今」
「あ?ちげーよ」
「またまた。にやにやしてっから。で?どこなわけ?名前さんの弱点」
「てめぇに教えるわけねーだろ」


横でパックジュースを飲みながらニタニタしている御幸を他所に弁当を平らげると、空っぽになった弁当箱を洗う為に席を立った。


早く名前に会いたい。
朝に触れられなかった分、後でたっぷり触れてやる。
どうやら御幸が言ってたことも強ち外れじゃなかったみたいだ。



extra*06



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