連載 | ナノ

指先でふれたロマンチック 14.5



「あれ?あっちのグラウンドってもう準備終わってなかった?」


名前の背中を見送っていた横から聞こえたくすりと笑う亮さんの声。



試合前に名前を探していると、ここで純さんと亮さんと話す姿を見つけた。
嬉しそうにはにかんで、スコアブックで顔を覆う名前。

何を話しているのか無性に気になって、その笑顔に苛立ちを覚えた。
だってあんな顔、俺には見せたことがない。
沸々と怒りが込み上げ、その場に歩み寄ると名前を亮さんたちから引き離すような嘘を吐いた。


名前がその場から走り去った後に冒頭の台詞を述べた亮さんは、俺に笑顔を向けている。

やっぱりこの人には通用しないか。
多分俺が考えていることなんて全てお見通しなんだろう。


「昨日、名前と出掛けたんだって?沢村がデートだって大騒ぎしてたけど」
「デートですよ」
「・・・・・それ、本気で言ってんの?」


自分でも珍しいと思う程見栄を張ってそう言い返すと笑顔を張り付けたままの亮さんの、驚くほど低い声が耳に届いた。
たっぷりと怒りを含んだ声。
何故亮さんが怒っているかなんて、そんなの考えなくたって分かる。
名前は俺たち部員にとって大事な存在。
ましてや亮さんは名前を妹のように可愛がっている。


「名前に気持ち伝える勇気もないくせに、嫉妬はするんだ?お前がもたもたしてるなら、横からかっ拐ったっていいんだよ?・・・純が」
「ん・・・俺!?」
「名前は御幸のものじゃない」


ちくりと胸に鋭いものが突き刺さる。
純さんは意表を突かれたような顔をしているけれど、確かに純さんと名前の仲は飛び抜けて良い。
以前名前が倉持に、純さんと自分が付き合ったらどうするか、と相談していたのを思い出した。
名前はやっぱり純さんのことが好きだということなのかもしれない。
何度も考えた可能性がまた浮上して、ちくりと痛んだ胸はさらに痛みを伴って締め付けられる。


「名前を守りたいって思ってる男なんて沢山いるんだ」


そんなこと、分かってる、
分かってるよ。


「中途半端な態度で名前に近付くなよ」


亮さんの鋭い口調と的確な物言いに、奥歯がぎりりと音をたてた。
ごもっともすぎて言い返す言葉なんて見当たらない。

振り返れば向こうのグラウンドから俺たちを気にしてこちらへ視線を送る名前。
もう一度亮さんの方へ向き直り、手のひらを強く握り締めた。


「生半可な気持ちで名前の側にいるわけじゃないって、証明してみせます」


こんな形で漸く腹を括れたなんて情けない話だけど確かにこの時、名前を守るのは俺でありたいと改めて思ったんだ。


名前を抱き締める、一日前の話




指先で触れたロマンチック
14.5

(誰かに譲る気なんて更々ないんだよ)




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