連載 | ナノ

指先でふれたロマンチック 18



練習後、すっかり暗くなった校門の周りを手持ち無沙汰にうろうろしていた。
こんな遅い時間まで練習をしているのは野球部くらいなもので、辺りはしんと静まり返っている。
時々通る帰宅組の部員にこんな所で何をしているのかと聞かれれば苦笑いを返すことしか出来なかった。

御幸との事を隠している訳ではないけど、改まって私たちの口から報告するようなこともしていなかったから、まだその事実を知らない部員も多かった。

既に知っている部員は茶化しながら帰っていく人もいたけど、その茶化しさえ擽ったく思ってしまうなんてとんだ惚気だと我ながら呆れてしまう。


「お待たせー」


後ろから足音と共に声がして振り向くとスウェットに着替えた御幸が両手で自転車を押しながら歩いていた。
御幸が自転車って初めてみた、なんてことを考えていたら目の前まできた御幸が自転車のサドルに跨がった。


「寮のチャリ借りてきた!」
「めっちゃ後ろに青心寮って書いてあんじゃん、ださっ」
「うっせ、ほら乗れよ」


御幸が顎で指したのは後ろの荷台。
どうしよう、こういう時ってやっぱり女の子らしく横向きで座った方がいいのかな。
男の子と二人乗りなんてしたことが無いからどうしたらいいか戸惑ってしまう。
女友達が相手だったら迷うことなく跨いで座るんだけど。


「乗れって」
「うん・・・!」


横座りなんてそんな女子らしいことしたことないし、悩んだ挙げ句に荷台を跨いだ。


「名前は絶対そう乗ると思った」


座った途端にけらけら笑う御幸に、やっぱり無理してでも横向きに座ればよかったと心底後悔した。


「女らしくなくてすみませんね」
「いや、おまえが横座りとかしてたらキモいし」
「それ彼氏が彼女に言うことじゃないから」


そう言い返すと御幸がにっと笑った。
顔だけ後ろに向けて笑うその顔はなんだかすごく嬉しそう。


「な、なに?」
「彼氏って俺のこと?」
「え?」
「いま彼氏って言ったじゃん。なんかすげぇ実感♪」


なんだか自分がすごく恥ずかしい事を言ってしまった気がして、嬉しそうな顔で笑う御幸に顔が熱くなった。
前を向いた御幸は私の手を掴んで自分のお腹に腕を回させる。


「んじゃ出発!ちゃんと捕まってろよー」


ゆっくりと走り出した自転車。
少しだけ御幸の背中から離した自分の体。
御幸に抱き付くようなこの体勢でぎゅっと捕まるのには抵抗があって、振り落とされないように自分の体に力を入れた。
だってどきどきがばれてしまいそうで、これ以上御幸に近付けないよ。


「もっとちゃんと捕まれよ。顔赤くしちゃって、名前ちゃん可愛いー」


ひひっとからかうように笑う御幸。
余裕たっぷりなその姿が悔しい。
何かお返ししてやりたくて、お腹に回した腕を思い切ってきつく抱き締めてみたら、びくりと御幸の肩が動いた。
・・・あれ、なに今の反応。
不思議に思って肩越しに御幸の横顔を覗きこんだ。


なんだ・・・御幸だって顔真っ赤じゃん。

さっきまであんなに余裕な態度を見せてたのに今はすっごく可愛く見える。


「っ・・くそ、笑ってんなよ」
「はは、仕返しだもんねー」


御幸もどきどきしてるのかなって思ったらその音を聞いてみたくなって、御幸の背中にそっと耳を押し当てた。

少しだけ早い、私の中で響く音と似たそれはとても心地好い。
そのまま大きな背中に体を預けて、お腹に回した腕にもう少しだけ力を込めてみる。


「あんまひっつくなよ、どきどきするじゃん」
「もうしてるじゃん」
「そっか」


夜の住宅街に二人の笑い声が響く。
こぎ出してしばらく経った自転車は風を切りだし、二人の髪をさらさらと靡かせた。




ハニカム恋人へ
(風にのせた想いは君にとどいてる?)




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