▼ 指先でふれたロマンチック 17 朝、鳴り響く携帯電話のアラーム音で目を覚ます。 まだ目覚め切らない頭で天井をぼんやり見上げた。 ふと、昨日の出来事が本当は今さっきまで見ていた夢だったんじゃないかと思えて、怖くて布団から出ることが出来ない。 目だけを動かして携帯電話が置かれたサイドボードを横目に見る。 充電器に繋がれた携帯電話と、その隣には 昨日御幸がくれた、ピンク色のリボン。 がばりと布団を剥いで上半身を起こすと、それに手を伸ばした。 やっぱり夢なんかじゃない。 時計を見たら随分ぼんやりしていたみたいで、慌てて制服に着替えて鏡の前に立つと長く伸びた髪を後ろで括った。 御幸が似合うって言ってくれたポニーテール。 てっぺんのリボンをちょん、と指で弾いて部屋を出ると、リビングでお母さんが用意してくれていた朝食を詰め込んで家を出た。 途中走ったお陰で、逆にいつもより早く着いてしまった。 御幸はもう教室かな? 周囲を見回してみたけれど、御幸も知り合いもいないみたいだ。 残念なようなほっとしたような気持ちでぞろぞろと歩く他の生徒と一緒に校門を潜って玄関に向かっていると、後ろからぽん、と肩を叩かれた。 「おはよ」 「!お、おはよ」 後ろを向いたらにっと笑って挨拶する御幸がいて、その突然の登場にどきっとする。 「お前昨日メール途中で寝ただろ」 「え!?あ、あ、ご、めん」 うわ、吃りすぎだ私。 なんで御幸はこんなに普通なんだろう。 やっぱり昨日のことは夢だったんだって思えてしまいそうなくらい。 そんなことを考えていたら横から御幸の腕が延びてきて、私の顔の横を通ったかと思うと、後ろで括った髪に触れた。 「これ、やっぱ似合うな。可愛い」 「か、かっ・・・!?」 御幸の言葉にただ口をぱくぱくとさせることしか出来なかった。 顔がものすごく熱くなる。 「オラ、朝からいちゃついてんじゃねーぞ!!」 「わ!純さん!」 「純、嫉妬は見苦しいよ」 「おはようございます」 「おはよう、漸く付き合うことになったんだ」 「漸くって?」 亮さんの言葉に首を傾けると、御幸は苦笑いを浮かべ、亮さんはにこりと笑った。 「名前は気付いてなかったけど、御幸の気持ちなんてバレバレだったからね」 「漸く腹括ったわけか」 「いやぁ・・・亮さんにあれだけ口撃されたら焦りますよ」 「こうげき?」 「俺はあまりにも御幸がうだうだしてるから少し突っついただけだよ」 そのやり取りにちらりと御幸の顔を窺えばさっきと変わらぬ苦笑い。 亮さんの貼り付けたような笑顔を見たところ、きっと何か相当チクチク言われたんだろう。 亮さんのチクチクはかなり効く。 なんたってチクチクと思ってるのは本人くらいなもので、こっちにしてみたらグサグサ刺されているようなものなんだから。 漂う空気につられて私まで苦笑いを浮かべそうになったところで、横に立つ純さんと目があった。 「名前、よかったな」 「・・・はい!」 優しく笑った純さんに頭をぐりぐりされる。 今までたくさん話を聞いてくれていた純さんにそう言われるのはなんだかすごく照れくさくて、乱れた前髪を手のひらで整えながらへへ、と笑った。 亮さんのいびりも終わったらしく、三年生の下駄箱に向かう二人を玄関で見送った。 二人の背中が見えなくなると突然、御幸が頭をぐりぐりしてくる。 ちょうどさっき純さんがしたのと同じように。 「え、ちょ、なに?」 「触らせ過ぎ」 「え・・・?」 横を見たら口を尖らせた御幸がつん、とそっぽを向いた。 も、もしかしてこれがあかねちゃんの言ってたやつ・・・? 「なにそれ、降谷の真似?」 「ちげぇよ、あほ」 こういう時につい冗談を口にしてしまうのは私の悪いところだ。 だけど文句を言いながら、ちらっとこっちを見る御幸のいじけた顔が可愛くて胸がきゅーっとする。 それと同時ににやにやが止まらない。 「くっそ、お前むかつく」 「いてっ」 人差し指でおでこをぺしっと弾かれた。 ぴりぴりするおでこを擦りながらも、やっぱりにやけは治まらない。 「そうだ、名前、今日練習終わったら待ってて」 「うん?」 「送ってく!」 ・・うわー、うわー! どうしよう、すっごい恋人同士っぽいんだけど。 いや、そっか、違う・・・ ぽい、じゃなくて・・・正真正銘の恋人同士なんだ。 ぼん、て音がするんじゃないかってくらいに熱くなった頬を、両手の手のひらで冷ました。 きみと二度めの待ち合わせ (まだ一日は始まったばかりだっていうのに) [back] |TOP| |