連載 | ナノ

指先でふれたロマンチック 15



昨日はあれからバタバタして亮さんたちとも御幸とも話をすることが出来なかった。
でも今朝教室で会った御幸はいつも通りだったし、昨日感じた違和感は単なる私の思い過ごしだったのかな。
もしかしたら御幸がこっちを振り返ったのだって私の方を見ていた訳じゃないのかもしれない。
やだ私ったら、自意識過剰だわ。

うん、きっとそうだ。
考えても埒が明かないからそう思うことにして、お弁当の入ったミニトートを片手に屋上へ向かう足を動かす。
半ば無理矢理にだけど納得したら少しだけ足取りが軽くなった。

今日は珍しく倉持から、屋上で昼飯を食おう!という提案があった。
なのに昼休みに入って気が付けば倉持の姿はどこにも見当たらず、御幸まで一緒にいなくなってるんだもんな。
どうやら購買に寄ってから屋上に向かうらしく、後から携帯にメールが届いていた。
一言くらい言ってくれてもいいのに。
置いてけぼりをくらった私は文句を垂れながら階段を一段抜かしで駆け上がり、屋上へ続くドアを開けた。

ぶわりと吹き込んだ風が前髪を揺らして、明るい日射しが視界に飛び込む。
その光に目を細めながら屋上へ足を踏み出した。
今日は良い天気だ。


「名前ちゃん遅ーい」


誰もいないと思って青空を見上げて伸びをしてみたら、後方から御幸の声が聞こえてびくりとしてしまった。
ぐるりと振り返ると一段高くなったコンクリートの上に胡座をかいている御幸を見つけた。

いや、うん・・見つけたんだけど・・・
そこにいた御幸の姿に自分の目を疑った。


「な、なにしてんの」
「名前待ってた」


いやいや、違うの、そうじゃなくて・・・
私が言いたいのは御幸の頭のことだ。
だって・・・御幸の髪が可愛らしいピンクのリボンのヘアゴムで横にちょこんと結われているんだもん。
そしてそのピンクに、私は見覚えがあった。


「そのリボン、なんで・・・」
「あ、これ?可愛いから買ってみたんだけど、俺には可愛すぎたわ」
「は・・・」
「名前にやるよ。日曜日のお礼ってことで」


立ち上がった御幸がひょい、と段差から降りて私の目の前まで歩いてくると、自分の髪からするりと外したヘアゴムを指に引っ掻けて腕を伸ばした。
御幸の指がすっと私の耳元を掠め、後ろで一つに纏めた髪の黒いゴムの上から両手でリボンのヘアゴムを括りつけた。
抱き締められているようなその体勢と距離にただ真っ赤になって固まることしか出来なくて、ぎゅっと瞑った目を少しだけ開けてみると、満足げに笑う御幸の口元が見えた。


「やっぱ名前がつけたほうが可愛いわ」


屈んで私の顔を覗き込み微笑む御幸に胸がばくばくと跳ねる。
顔だって逆上せそうなくらい熱い。
だって・・・可愛いなんて言われたの、初めてだ。


「ぁ・・・でもっ、宿題のお礼で買物付き合ったのに貰ったら悪いよ」
「そうか。じゃあ・・・これのお礼に俺の彼女になって」
「・・・・・は・・・」


その言葉にぴしりと固まる。
言って良い冗談と悪い冗談ってもんがあるでしょう?
さっきまでのどきどきは一瞬にして消え失せ、目の前の御幸をじっと見つめた。


「ふざけてるならキレるよ?」
「ふざけてねーし」


我ながら随分と低いトーンで言ったものだと思ったけど、ふざけていないと言った御幸の声も驚くほど冷静なものだった。


「他の奴に名前を渡したくない」
「な、なにそれ・・・」
「・・・俺はずっと好きだったよ。名前のこと」


うそ
うそだ、うそだよ

御幸の言葉を単純に信じて喜びたい自分を、脳裏に浮かぶ存在が隅へ隅へと追いやっていく。
御幸は私を喜ばせるのが得意で、同じくらいがっかりさせるのが得意だから。
きっとまたすぐになーんて、て言って笑うんでしょ。

だからそんな真っ直ぐにこっちを見ないで。
私が勘違いする前に、早く嘘だって言ってよ。


だって御幸にはあの子がいるじゃん。




嘘つきとカワード
(うそだ、うそだと言い聞かせたのは、自分への予防線)




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