連載 | ナノ

指先でふれたロマンチック 13



夕暮れの人混みの中を御幸と二人で歩くのは何だか変な感じがした。
前からは私達より少し年上の仲良さそうなカップルが手を繋いで歩いて来る。
周りをよく見てみれば日曜日だからなのか、やたらとカップルが多い気がする。

私達も傍から見たらそう見えたりするのかな。
手は・・・繋いでないけど。

お店のウィンドウに映り込む私と御幸の姿。
眼鏡が似合うその横顔はきっと街中の誰よりも格好いい。
さっきからすれ違う女子たちの視線を集めていることに本人は気付いているんだろうか。
気付いてるだろうな、これだけすれ違い様にきゃっきゃされちゃあ。
そんな御幸の隣を歩いているのが私だなんて誰が認めるだろう。

・・・身長差だけ見たらすごく理想的だと思うんだけど。

なんてくだらないことを考えながら小さく溜息を吐いてウィンドウから視線を反らすと、雑貨屋の店頭に並べられたヘアアクセサリーが目に入った。
わ、あれかわいい。

落ち着いた綺麗なピンクの色のリボンが付いたヘアゴム。
あれくらいだったら学校にもしていけそう。
決して派手ではないけど可愛いそのデザインは、私の好みにぴったりだった。


「なんか見たいものあった?」
「いや、あのリボンのやつ可愛いなぁって思っただけ」
「買わねぇの?」
「うん。いいや」
「ふーん」
「私には可愛すぎるよね、あれ」
「身の程を分かってんだな」
「だまれ」


くつくつと笑う御幸にバッグをぶつけてやる。
大袈裟そうに痛がる御幸を放って先を歩き出した。
やっぱり全然デートだなんて雰囲気じゃないじゃんか。
いつもの扱いと何にも変わらない。
分かってたけどやっぱり少しだけへこむなぁ。


「名前、ここ」
「んぁ?あ、ごめん」


いつの間にか目的のお店の前まで来ていたらしく、肩から提げたバッグのベルトを御幸に後ろからくんと引かれて足を止める。

御幸の後に着いて広い店内に入り、野球用品の売り場へ向かうと目的の物を選び始めた。


「どれがいい?」
「うーん、まぁ高校野球で使えるバッテなんて限られてるしねぇ」
「そうなんだよな」


一通り見渡して、御幸が絞った幾つかのメーカーの中から私が最終的に一つに絞ることになった。
・・・ていうか本当に私が選んでいいのかな?
しかも試合用とか言って・・・責任重大じゃない。
じーっといくつかのバッティンググローブを真剣に見比べる。
うーん・・・


「御幸は黒って感じ。白じゃないな」
「なんで?」
「白ってほら、御幸と違って爽やかな人が付けて似合うものだからね」
「ゾノだって白じゃねーかよ」
「そうだっけ?じゃあ今のは無し」
「お前中々ひでぇな」


さっきのお返しに言ってやろうと思ったのに、結果的にゾノが被害者になってしまった。
こんなのチクられたら後で絶対ゾノにどやされる。


「でも御幸は黒だよ、やっぱり。これがいいと思う」
「なんでこれだと思うわけ?」
「直感!」
「ははっ、直感かよ。でも・・何か打てる気してきたわ」


ニヤリと笑ったその強気な表情に目眩すら覚える。
私の選んだグローブを手に取って会計へ向かう御幸に声を掛けて、店の外で待つことにした。
御幸が戻ってくるまでにこの火照った頬を冷まさなきゃ。
店の外に出ると入口から少し捌けた所に立って、ふぅ、と息を吐いた。

それにしても、本当に試合であれを使うのかな・・・
少しでも力になれるならそれは嬉しいことだけど、本当に私なんかが選んで良かったのかと不安はやっぱり拭い去れない。


ふと足元に影が落ちて、御幸が戻って来たんだと顔を上げる。

・・・あれ?

御幸かと思っていたのにそこには知らない男の人が立っていた。
誰だこの人、絶対知り合いじゃない。
何か用ですか、そう口を開きかけた時、私より先に目の前のその男の人が口を開いた。




「靴下売ってくれませんか」


・・・・・は?
今なんて言った?
私何か聞き間違いしたかな??
目の前の男の人が発した言葉に目を丸くして固まった。


「片方5千円で・・・」


え、え、聞き間違いじゃなかったみたい!?
うわ、きも・・どうしよう、こわい・・・
逃げろって頭の中じゃ危険信号が点滅してるのに、こういう時ってどうして足が竦んじゃうんだろう。
その場で一歩後退りすることしか出来ない。




「おいおっさん、一緒に交番まで行ってあげようか?」
「ぁ・・みゆ・・・」


後ろから聞こえた声と抱き寄せられた肩に硬直していた体が少しだけ和らいだ。
店内から会計を終えて出てきた御幸が目の前の男をきつく睨む。
見上げたその表情からは怒りが感じ取れて、強く抱かれた肩に不謹慎にも嬉しさを感じてしまった。
逃げる男を見送った御幸は盛大な溜息を吐いて肩から手を外した。


「あ、ありがとう・・・」
「何おまえ、モテ期継続中?」
「え、あ・・・あれはカウントしてほしくないんだけど」


冗談を言いながらも抱き寄せられていた肩がまだ熱くて、さっきまで私に触れていたその手にどきどきが収まらない。
私の言葉に笑っていた御幸はふと真剣な表情を見せた。



「一人にしてごめん」
「いや、まさかこんなとこであんな声掛けられるとは思わないもん」
「まぁな・・・だけど俺が隣にいたら声掛けて来なかっただろうし」
「まぁ、ね」
「もう一人にしたりしないから、名前もちゃんと傍にいろよ」
「う、うん」


優しく笑った御幸にびっくりするぐらい心臓が跳ねて、胸がきゅーっと締めつけられる。
再び隣を歩きだした御幸の大きな手を、いま無性に捕まえたくなった。
触れそうな距離まで指先を伸ばして、ぎりぎりのところでやっぱり急いで引っ込める。

何がしたいんだ、私は。
ぶんぶん、と顔を横に降ってみる。


どうしよう、どうしよう

やっぱりどうしようもないくらい御幸が好きだよ。




噛み締めるラブユー
(ちぢまれ。この手の距離も、この想いの距離も)




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