▼ bitter sweet...03 「おい御幸!どうなってんだよ」 そう言って慌てたような困惑したような顔をして俺の部屋に入ってきたのは、俺の敵・・いや、チームメイトのノリだ。 まだ練習着姿でエナメルを肩に掛けているところを見ると、たった今寮に戻ってきたばかりなんだろう。 右手には少し小さめの紙袋が提げられている。 「どうした?」 「どうしたじゃねぇって!これ」 「あぁ、苗字から貰ったんだろ?」 「え?知ってたのか?」 当たり前だ。 毎日のようにメールをして、時たま電話もしたりして彼女の相談に乗っていたのは誰だと思う? ノリは立ち尽くしたままわけが分からないと言った顔をしてる。 こんな物を貰って苗字の気持ちに気付かない程、ノリは疎くない。 ただ、俺の事を好きだと思っていた苗字の好意が自分に向いていて、それを俺が認識しているという事に困惑してるんだろう。 「少し前から苗字の相談に乗ってたの。俺」 「俺、苗字は御幸の事・・」 「いや、俺もそう思ったんだけどなー違ったんすよ。でも・・・」 入口に立ち尽くしたままのノリを見据えて言ってやるんだ。 俺からの宣戦布告。 「苗字にそんなん貰って浮かれてるとこ悪いけど、ノリには渡さねぇから」 「浮かれてねぇよ!俺、みんなに言って無かったんだけど・・彼女が居るんだ」 「・・・・・・え?」 目の前で少し困ったような顔しているこの男は今、なんと言った? 「は・・・・」 「これ、受け取るべきじゃなかったよな・・なんか展開に驚いてそのまま貰っちゃったんだけど・・・」 待てよ。待てって。 いま少し前に彼女という単語が聞こえなかったか? ノリに彼女? そんな話聞いたことねぇぞ。 「・・・いつから付き合ってんだよ」 「地元の子で、中三のときから」 「苗字が入る隙なんてねぇって感じ?」 「俺は・・今の彼女以外考えられない、と思ってるよ」 少し恥ずかしそうに頬を赤らめてそう言うノリの姿は、女子から見れば可愛い、なんて言われそうだが。 今は寮の密室に男二人きり。 できたら勘弁してもらいたい。 てゆうかなんだよ。 ツーアウトからの奇跡も逆転サヨナラもくそもないじゃん。 まさかの、不戦勝かよ。 俺とノリの間に微妙な空気が流れ始めたその時、その空気を壊してくれるかのように俺の携帯が震え、音を立てる。 けれど、その着信画面を見て思わず頭を抱えた。 ディスプレイに表示されていたのは電話番号と苗字名前の文字。 きっとノリに差し入れを渡せたという報告の電話だろう。 事は俺に有利な方へと傾き出した筈なのに。 喜ぶべき事態だというのに。 この事実を知ったら苗字はどんな顔をするだろうか。 胸の辺りがきりきり痛む。 ディスプレイに浮かぶ苗字の名前を見て一番最初に思ったことは、そんな事だった。 宣戦布告・・・の筈だった [back] |TOP| |