連載 | ナノ

bitter sweet...02




「いや、まさかノリだとはな。ヒャハハ!」
「お前いっぺん死んどけな」
「つうか御幸がそんな顔するなんて結構マジだったんだな」


マジで何が悪い。
にやにやとする倉持から視線を廊下に外すと、その先に見えたものに思わず口元が緩んだ。


「言っとくけどマジだし、ノリに渡すつもりもないんだよね」


よっ、と椅子から立ち上がり教室のドアから廊下に顔を出す。
突然俺の顔が目の前に出てきたもんだから、苗字は目をまんまるくして驚いていた。


「よ、どうした?俺に用でしょ」
「あ・・、うん!あのね、これ、味見してほしくて・・・」


そう言って彼女が差し出した紙袋の中には、少し小さめの可愛らしい瓶に詰められた、透き通ったオレンジ色にレモンの輪切り。


「ノリにあげるやつ?」


俺の声に顔を赤くして口の前で人指し指を立てて頷く苗字。
何なのこの子。可愛すぎるでしょ。


「ごめんごめん。レモンの蜂蜜漬けじゃん。俺これすげぇ好き」
「ベタかな、と思ったんだけど・・練習後だからこうゆう方がいいかな、て思って」
「うん。いいんじゃね」
「明日、味見した感想聞きにまた来てもいいかな」
「あー・・じゃあさ、連絡先教えてくんね?そしたらいつでも相談乗れるし」


ノリの情報も送ってやれるから、と耳打ちしてみせれば苗字は目を輝かせて何度も頷いた。
相談に乗れるなんて言いながら、いつでも苗字に連絡が出来るという環境を手に入れたかっただけなんだけど。


「じゃあ、連絡するわ」
「うん。お願いします」


苗字に手を振り見送ると、教室へ戻る。
教室では今のやり取りを終始見ていただろう倉持が、アホ面でぽかんと口を開けていた。


「・・お前らどうなってんだ?」
「苗字の中では恋の相談に乗ってくれる優しい御幸くん?」


そう言えば、俺の考えを全て悟ったようで倉持はくつくつと笑いだした。


「ヒャハっ、お前サイテーだな」
「はっはっは、策士と呼べ。人聞きの悪い」


最低。
確かにそうかもしれない、今は。
要は苗字が俺に振り向いてくれればいい。
そうしたならそれは最低でも何でもなくなるんだから。




そんな事を考えて苗字に手渡されたノリへの愛情たっぷりな小瓶を突つきながら満足げに笑う俺を、苗字は知らない。




ツーアウトからの奇跡を信じて



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