▼ 君を手に入れたいと思った日 ** 「いいか、御幸とか変な奴とか御幸とかに何かされたらそいつの太股目掛けて打ち込む!」 「う、うん!」 とある休日。 練習が終わった後、グラウンド脇で名前にタイキックもどきの練習をさせていた。 何でこんな事をさせているかというと、昨日のホームルームで近ごろ青道近辺に変質者が多発しているから気をつけるように、との通達があったからだ。 仕事で帰りが遅くなることもある名前。 俺がいつだって守ってやれればいいんだが、現実そうはいかない。 だからせめて、万が一、変質者に遭遇してしまった時の為に護身術なるものを伝授していた。 「おい倉持、名前さんに物騒なもん仕込んでんじゃねぇよ」 通り掛かった御幸がげんなりとした表情を俺達に向けた。 物騒と言っても、名前はさっきから怖がって俺の足にそっと当てるだけのキックを繰り返しているだけだ。 まともな一発は一度も入っておらず、そのキックに威力は全く無い。 「はっはっは、そんなんじゃ俺は倒せないっすよ?」 「わかってるけど〜っ、もし強くキックして洋一の足に何かあったら怖いんだもん!」 「そんなんじゃ練習の意味ねぇだろ、バシっと思い切りやってみろって」 「わ、わかった」 俺の足を心配して強く蹴れないなんて、可愛いやつだ。 こいつのこの細い足から繰り出されるキックの威力なんて計り知れてるだろうに。 むしろいつも履いてるヒールで急所を蹴り上げた方がよっぽど効果は絶大だ。 俺が本気でもう一回と声を掛けると、ふぅ、と一つ息を吐いて体勢を整えている。 「いきます!」 「おー」 こいつの本気がどれくらいなのか−・・・・ どかっ・・・!! 「っ!!?いっ・・・!!」 衝撃すぎてまともに声も出ない。 完全にナメていた俺は思いがけない強烈な一撃が太股に決まり、思わず顔を歪めた。 まさか、こいつの本気がここまでとは… 一体この細い体のどこからそんな力が出てきたんだよ。 「な、ないすきっく・・・」 「ほんと!??やったー!!」 「まじか・・・怖ぇ〜、俺もう迂闊に名前さんに近付けねぇわ!」 褒められて大喜びの彼女の横で笑い転げている御幸。 くそ、腹立たしいがこれなら何かあっても十分自分の身を守れることはできるだろう。 鈍痛の残る太股をさすりながら、次は沢村という練習台を用意して挑むことにしようと心に決めた。 extra*03 [back] |TOP| |