連載 | ナノ

君を手に入れたいと思った日 **




金曜の夜、俺の携帯が鳴り響いたのは10時過ぎのことだった。
着信画面に表示された名前を確認して躊躇うことなく通話ボタンを押す。
今日は会社の付き合いで飲み会に参加しなくてはならないと聞いていたから。
きっと終わったんだろう。


「お疲れ」
『あ、もしもし‥』


一瞬、思考回路が停止した。
だって、電話の向こうから聞こえた声は聞き慣れない男の声だったんだ。


「・・・・・・」
『あの、俺、苗字さんの会社の同僚の者なんですけど・・・』


あぁ、いつか聞いた事がある。
こいつがその男か。
何でこいつが名前の電話から俺に電話をかけてきたのか。


『こいつ酔っ払っちゃって、タクシーでいま家の近くまで来てるんですけど・・・』


・・・あのバカ。
あれ程飲み過ぎるなっつったのに。

女性の家まで上がり込むことは流石にできないと言う同僚の男に、近くのコンビニで降ろすように指示して迎えに行くと伝えた。


電話を終えて直ぐさま向かったいつものコンビニの前にタクシーを見つけた。
そのタクシーの横に立つスーツの男。
あれが電話のやつか。
近付いて軽く頭を下げる。


「すいません、ご迷惑お掛けしました」
「あ・・・え、彼氏さん?」
「・・・そーっすけど」
「えー年下だったんだ!苗字もやるなぁ」


こいつも若干酔ってるのか、その少し高めのテンションと俺を若干ガキ扱いしている感じに苛立ちを覚える。
年下で悪ぃかよ。

タクシーの中を覗き込めば、バッグを胸に抱き熟睡している名前の姿を見つけた。
その姿に溜息を吐いて同僚の男に向き直る。


「こっからすぐなんでここで大丈夫です」
「あぁ、じゃあ後お願いします」


名前の身体をタクシーから降ろし、背中に背負って一度体勢を直したところで呼び止められた。


「こいつのこと怒らないでやってね。悪ノリした上司に勧められて断れなかったんだよ」


そう言って笑った顔は爽やかそのもの。
なんでこいつの周りはこうイケメンが多いんだ。
つうかお前に言われなくても怒ったりしねぇよ。


「じゃ、あとはよろしく彼氏クン」


同僚の男はそのまま待たせていたタクシーに颯爽と乗り込み、その場を去った。

なんか最後までムカつくやつだったな。
いけ好かねぇ。
大人の余裕ってやつ?
俺ばっかりがむしゃくしゃしてかっこわりぃ。



「よ、ぅいちー・・・」
「あ?」


背中から寝ぼけた声で名前を呼ばれて思わず不機嫌そうに返事をしてしまった。
まぁ、今のこいつじゃ気付かないだろうけど。
首を少し動かして後ろを確認してみたが、起きたわけではないらしい。
寝言か。




「洋一すきぃ・・・ぅへへへ・・・・・・」
「・・・キモい笑い方してんな、ばーか」


言葉とは裏腹に緩む口元。

耳元で聞こえたその言葉は、さっきまでの嫌な気持ちを晴らしてくれるには十分すぎた。



extra*02



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