連載 | ナノ

指先でふれたロマンチック 11




「・・・お前大丈夫?」


教室に入って朝一番におはよう、と声をかけた私の顔を見るなり御幸が目を見開いた。


「な、なにが?」
「いや、だって具合悪いだろ。絶対」


机の上にバッグを置きながらぎくりとした私を見てやっぱりな、と言わんばかりの顔を見せる。
御幸の言う通り、実は昨日の夜から体調が優れなかった。
一晩眠れば治るだろうと思っていたのだけれど、今朝ベッドから出た私の具合は明らかに悪化していた。
けれど学校を休みたくなくて、気付かない振りをして熱は計らずに家を出てきた。

だって今日は水曜日だ。
それに一日だって御幸に、みんなに会えないのは嫌だった。


「熱は?」
「‥計ってない。でも多分そんなに無いと思う!」


笑って見せても御幸はまだ怪訝そうな表情を私に向けたまま。


「ほんとかよ。なんか顔赤いけど」
「大丈夫、やばいと思ったら保健室行くから」




そう御幸を言いくるめたものの、時間が経つに連れて体調は更に悪くなっていくばかりだった。

やば、寒気してきた。
なんかもうぐらぐらしてノート取ってらんないや‥
立て肘で重い頭を支えながら、なんとか辛うじて目を開けている状態。


三限目の終わりを知らせるチャイムと共に机に突っ伏した。
机に頬をぺたりと着けると冷たくて気持ち良い。
あれ、次って音楽室に移動だっけ?
周りのみんながばたばたと準備する音が聞こえる。
私も早く準備しなきゃ・・・

そう思って重い体を動かそうとしたとき、私の前に御幸が立ち塞がった。


「つぎ、音楽だよね」
「おう。だけど名前ちゃんは保健室行きです」
「え、いいよ。だいじょ」
「大丈夫じゃねぇだろ」


強めに言われたその言葉に御幸を見上げれば、少しだけ怒ったような顔をしていた。


「見てるこっちが大丈夫じゃねんだよ」
「なんで・・・?」
「そのうちぶっ倒れるんじゃねぇかって後ろが気になって授業にも集中できねーの」


授業中に何度も振り返ったという御幸に、不謹慎ながらも嬉しいと思ったり。

結局御幸に連れられて保健室に向かうことになった。
横を歩く御幸が具合の悪い私に合わせてゆっくり歩いてくれる。
大丈夫か、とか途中何度も声を掛けてくれて。
風邪を引くと周りの人っていつもより優しくしてくれるよね。
小さい時はよく風邪を引くとお母さんにここぞとばかりにゼリーやらジュースやらを買って来て貰ってたっけ。


ぼんやり歩いていたら気付けば保健室は目の前で、御幸ががらりと入り口のドアを開けた。


「あれ、誰もいねぇや」


御幸の言葉に顔を上げると確かに保険医の先生は居らず、中は閑散としていた。


「とりあえずお前は寝とけ」
「うん」


保健室に二人きり!なんて思う余裕は最早皆無だ。
何やら携帯電話を取り出した御幸を横目にカーテンを開けて上履きを脱ぐと、もぞもぞとベッドに潜った。
あぁ、寝そべったらかなり楽になった。
きっと今日はこのまま早退になるだろうな。
今までお休みどころか早退も遅刻だってしたこと無かったのに。
記録が破れたな、なんて思っていたらカーテンを引く音が聞こえた。
少しだけ上体を起こしてみると、電話を終えたらしい御幸がいた。


「昼まで待ってくれれば礼ちゃんが車で家まで送ってくれるって」
「あぁ、それは助かる」


携帯電話をズボンのポケットにしまうとそのまま隣のベッドに腰かける御幸。
さてはこのままサボるつもりだな。


「音楽行きなよ。もう始まってるよ」
「知ってた?俺、保健委員なの。病人の看病するのは当たり前だろ」
「・・・サボりたいだけでしょ」
「違うって。名前を一人にするのもあれだし、礼ちゃんが来るまでここに居てやるよ」


にっと笑った御幸にどきりとする。
絶対にサボりたいだけなんだけどね。
ただでさえ熱のせいで心拍数上がってるんだからやめてよ。
照れ隠しに布団を鼻の上まで引っ張りあげた。
横目で御幸を見るとしっかり目が合う。




「・・・ごめんね、迷惑かけて」
「いつもより素直じゃん」
「いつも素直だし」
「はいはい」
「・・・ごめんね。今日、調理実習だったのに。今日は他の子から貰ってよ」
「他の人からは貰わないって言ったろ」
「そっか」


他の子から貰うと面倒くさいからっていう理由があるのも分かってるのに、その言葉が擽ったくて熱の苦しさが少しだけ和らいだ。


「礼ちゃんが来るまでまだ時間あるから少し寝てろよ」
「う‥ん・・・」


そっと頭を撫でられて、これじゃまるで寝かし付けられてる小さな子供だ。
でも、御幸の手のひらが火照ったおでこに当たると少しだけ冷たくて気持ちいい。


「おやすみ」
「ん・・・」



ぼんやりと微睡み始めた視界の中で、目を細めて薄らと笑顔を浮かべる御幸を見た。




私がいつもこんなに素直で、御幸がいつもこんなに優しくしてくれたらいいのになぁ。




まどろみスウィート
(ねぇねぇ、きみと手をつないで笑うゆめをみたよ)




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