連載 | ナノ

指先でふれたロマンチック 08




「御幸くんって今日は練習するのかな?」
「御幸くんに差し入れしたら受け取ってもらえる?」
「御幸くんは・・・」


あぁ、もう勘弁して。
次々と飛んでくる言葉の頭には全て『御幸くん』が付いている。
困ったな。
今日のオフ日は純さんのとこで漫画を読み漁る予定なのに。
早く行きたいのにー・・・
途中で御幸のファンの子たちに捕まってしまった。


「私に聞くより本人に聞いたほうが早いと思うけど・・・」
「聞けないから名前ちゃんに聞いてるのにぃ」


三人いるマネージャーの中でも御幸と同じクラスの私は御幸の事なら何でも知っていると思われているらしく、一日最低一回はこうして御幸についての質問を受けている。
答えられるものは答えるけど、たまにある『御幸くんのアドレスを教えて』なんていう非常識な質問には当然答えられない。
知らない質問にだって答えられない。
いや、むしろ知ってたって出来ることなら答えたくなんかないんだけど。


「これ、私たちからってことで御幸くんに渡してほしいんだけど・・・」


そう言って差し出された可愛らしい紙袋。
中には差し入れのお菓子が入っているらしい。
半ば無理矢理に渡されたそれを突っ返すこともできず、そのまま手にした。


「御幸くんに食べてくれたらかんそ・・・
「名前ちゃん!」


突然、背後から彼女たちの声を遮ってよく通る高い声が聞こえた。


「高島先生が名前ちゃんのこと探してたよ」


振り向けばそこにはにこりと笑うあかねちゃんの姿があった。


「・・・あ、じゃあ私行かなくちゃ」
「じゃあそれ、よろしくね!」


そう言い残して去っていく彼女たちの背中を見送りながら溜息を吐く。



「大丈夫?変なことされたり言われなかった?」


彼女たちの姿が見えなくなるとぱたぱたと近付いてきたあかねちゃんは、心配そうに眉を下げ私の顔を覗き込んだ。
くりくりの瞳に私の姿が映る。


「大丈夫!じゃあ私高島先生のとこ行ってくるから・・・」
「あ!ごめん名前ちゃん」
「ん?」
「高島先生が呼んでるなんて嘘なの」
「嘘?・・・ぁ」


そうか。
私がまた絡まれてるのを見て彼女は助けようとして嘘をついてくれたんだ。


「助かったよ。ありがと」
「ううん。たまたま通り掛かったから」


気にしないで、と照れたように笑う彼女はまた可愛いらしくて。
美少女とは正に彼女のことを言うんだろう。
可愛いだけじゃなくて性格まで凄くいい子なんだもん。
正しく非の打ち所がない。
いっそもっと性格が悪くて意地悪な子だったら、彼女を憎むこともできたのかもしれない。

まぁ、そもそもそんな子を御幸が好きになったりしたら、御幸の人格を疑うけど。



「それ、頼まれたの?」
「え、あぁ。ま、いつもの事ですよ」


さっき押し付けられた紙袋を軽く上に持ち上げて笑ってみせた。

そういつものこと。
正直なんで私が、て思うけど、彼女たちの怒りの矛先が向けられなくなっただけましなのかもしれない。
それも御幸が彼女たちと私の仲を取り持って、上手くセーブしてくれているお陰なんだろう。



「今日練習お休みの日だよね?」
「うん」
「それ、私から渡しておこうか?」
「え・・・?」
「あとで少し一也くんに会うから・・・」
「・・・っいい!!」





あ・・・


目の前のあかねちゃんの驚いた顔を見てはっとする。
やばい、やっちゃった。


「あ、ほら、こんな雑用あかねちゃんには頼めないよ!それにオフだけど部室行く用事あるから大丈夫!」


捲し立てるように言う間、頭は血が上ったように熱く、目はぐるぐると回って今にも倒れてしまいそうだった。


「そっか、それならいいんだ」
「うん!ありがとね、じゃあ私行くわ!」


明らかに様子のおかしい私にいつもと変わらない優しい笑顔を向けてくれるあかねちゃん。
おでこに嫌な汗を感じながら私は逃げるようにその場を立ち去った。









「さいあく・・・」


目の前にいた彼女は悪気なんて微塵もなくて、ただ私の面倒事を引き受けてくれようとしただけなのに。
全力で拒否した形になってしまった。
いや、拒否してしまったんだ。


私と御幸の接点をあの子に奪われると思った。
そうしたら頭の中も心の中も真っ黒になって・・・





「あ゙ーっ!!超嫌な奴じゃん、私」


頭をわしゃわしゃと掻きむしりながら歩くその姿は、さぞかし怪しかっただろう。
少し遅れます、と純さんにメールを入れて、駆け足で部室に向かった。












「なんだそれ」
「知るか。君のファンから押し付けられたんだよ」


タイミング良く部室にいた御幸は、差し出された紙袋を見て眉を寄せた。
ここにくる間に私の握力によって少しくしゃくしゃになってしまったのは見ない振りをしよう。


「またか。お前も貰ってくんなよなー」
「私だって好きで受け取ったんじゃない」
「・・・なんか言われた?」


紙袋を掴む私の手を御幸が捕まえる。
その表情は真剣で、御幸の大きな手にどきどきしながら首を横に振った。
それを見た御幸はどこかほっとした顔で。
御幸がそんな顔するから益々どきどきしてしまう。




あかねちゃんが助けてくれたから大丈夫、て御幸に伝えられなかった私は




やっぱり嫌な奴だ。




かなづちマーメイド
(きれいになりたい、きれいになりたい、)




back




TOP




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -