連載 | ナノ

指先でふれたロマンチック 06




週に一度のこの時間にこの授業を選んだ私は、我ながら天才じゃないかと思う。

水曜日の六限目の選択授業。
小腹が空いてくるこの時間。
家庭科を選んだのは絶対に大正解でしょ。
基本的に自分達のやりたいことをやるような授業だから、家庭科と言っても大嫌いなお裁縫なんてのは無くて、毎週のように調理実習が行われる。

今日の課題はフルーツのロールケーキ。
デザートには持ってこいだ。
うきうきしてエプロンの紐を結びながら窓の外に目を移した。
一階の家庭科室からは体育グラウンドが一望できて、外では同じように選択授業の体育が行われている。


御幸発見。

今日はサッカーの日らしい。
御幸がサッカーボールを追いかけてるよ。
あいつ、サッカーなんてできるのかな?

いつも野球をしている御幸ばかり見てるから、家庭科室からいつもと違う御幸を見れるこの時間が私は大好きなんだ。


お、意外と上手いじゃん。
・・・あ、でもあっという間に倉持にボール取られちゃってる。
やっぱ倉持には敵わないか。
あいつは何やらせても上手いタイプだな、きっと。
はしゃいでサッカーをしてる二人を微笑ましく眺めながら、ロールケーキを作る手を動かす。


「御幸くん、サッカーしててもカッコいいなぁ」
「私これ作ったら御幸くんにあげちゃおー」
「は!?抜け駆け禁止だからっ」


焼き上がったロールケーキの生地に生クリームを広げていると隣のグループの子たちのきゃっきゃとする声が聞こえ、ちらり見ていた窓の外から室内に視線を戻す。
周りを見れば、可愛いケースやビニールを大事そうに準備する子たちを見つけた。
きっと御幸用に違いない。
私はと言えば・・・おやつが欲しいから寄こせ、と言う倉持にあげる約束をしているだけ。

出来上がったロールケーキを切り分け、倉持に渡す二切れをなんの色気もなくラップに包むと残りの一切れも適当にラップで包んだ。
練習終わったら食べようかな。



授業を終えて教室に戻ると、待っていたと言わんばかりの顔をした倉持が私を見つけるなり急いで歩み寄ってきた。
そんなにお腹が空いてるのか、倉持くん。
きらきらと目を輝かせる倉持の手の平にロールケーキを置いてやる。


「はい、おやつ!」
「サンキュー!」
「あれ、俺のは?」
「は?」


倉持の後ろから近付いてきた御幸に聞き返すと、頂戴、と言うように笑顔でこっちに手を差し出している。


「無いけど」
「は?」
「だから、倉持の分しか無い」
「いやおかしいだろ。倉持にあってなんで俺に無いんだよ」
「御幸は他の子から貰えるでしょ」
「いや、全部断っちゃったんだよな。名前から貰おうと思って」


な、なにそれ。私を殺す気か。
一気に顔が火照るのを感じた。
だけど、すぐにその火照りを冷ませてくれたのは御幸の次の言葉だった。


「他の女子から貰うと感想とか迫られるからめんどくせんだよ」
「ひど・・・」
「ヒャハ!サイテーだろ?」


まぁ、確かに面倒だろうな。
私だったらそうゆう心配無いからってことですか。



「まぁ、名前の作ったもん食べたいってのもあるけど」
「え?」
「いつも倉持が名前の作ったもんは美味いって自慢してくんだぜ」


俺は何も貰ったことねーし。
そう言った御幸の唇は前に突き出されていて、なんだか可愛くて笑ってしまった。

エプロンが入ったトートバッグの底に手を伸ばして、ラップに包まれた残りの一切れを取り出す。
ほんとは自分で食べようと思ってたんだけど。


「これでよかったらあげるけど・・・」
「なんだよあんじゃねーか。最初から言えよなー」
「いや、余りもんだし。仕方なくあげるんだし」


トートバッグの中でぐちゃぐちゃになってなくて良かった。
砂糖入れすぎてないかな?
試食したときは美味しかったし、味は大丈夫だよね?
あぁ、こんなことになるならもっと綺麗にラップしとくんだった。
言葉とは裏腹に御幸の手にロールケーキが渡ると、途端に不安が広がる。
倉持には申し訳ないけど、さっきまでは何も気にならなかったのに。

御幸がラップを開いてロールケーキを片手に持つとそのまま口に運ぶ。
その姿を横でじっと見つめた。
何このあり得ないくらいの緊張。
握った手の平にはじんわりと汗が滲んだ。


「お、うまい。名前料理出来たんだな」
「け、結構得意ですけど」


御幸の感想にやっとほっとする。
そのまま一切れをぺろりと食べてしまった御幸はゴミになったラップを手の平でころころと丸めた。




「また来週もちょーだい」
「い、いいよ」
「んじゃ、約束な」


にっ、と笑ってそう言う御幸に私の胸は大きく跳ね上がった。
理由はどうあれ、御幸の為に料理ができる。

他の子に見られたら怖いことになりそうだから。
来週はこっそりと渡そう。




御幸との約束。
それは私を幸せにするには十分すぎて。


家庭科の時間が、御幸が、
もっともっと好きになった。




お砂糖にダイブ
(溺れちゃってもいいですか?)




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