▼ 君を手に入れたいと思った日 01 「おねーさん」 高校を卒業してすぐ就職をした。 早く自分で稼いで自立したかった。 否、働くことで自分はもう大人なんだと、そう認めさせたかった。 決して大企業とは言えない都内の企業に勤め、今年で社会人も4年目になる。 「おねーさーん」 同学年の友達も大学を卒業し、めでたく初々しい新社会人となった。 彼女達が過ごした4年間と私が過ごした4年間は、それはそれは掛け離れたものだろう。 大学に進学すりゃあ良かった、と思う事も多々。 きっとこの4年で私は大分老けたと思う。 帰り道のコンビニでOLに人気の雑誌に手を伸ばす・・・ 「おいっ!シカトかよ」 手を伸ばしたその時、後ろから右肩を捕まれた。 突然の事に驚き、肩が大きく跳ねる。 何事かと思い振り返ると、そこにはヒールを履いた私よりも更に背が高い、青道高校の制服を着た男の子のがいた。 「な、なんですか?」 「シカトすんなよ」 「は?」 「だぁから、さっきから呼んでたんだよ」 少年は持っていたバッグを肩にかけ直しながらそう言った。 エナメルの独特のバッグ。 彼はどうやら野球部らしい。 そうだ、このコンビニは青道高校の目の前にある。 ここは夜になると食料を調達に来るこの子みたいな子たちで溢れるんだ。 妙にガタイの良い奴らばかりでたまにびびる。 というか何故私が声を掛けられたの? もしかして・・・ カツアゲとか・・・? オヤジ狩り、的な? いや、オヤジじゃないけど。 確かに少し不良っぽい感じがするし・・ ・・・今ならまだ間に合う。 雑誌はまた今度でいい。 私は雑誌をラックに戻すと早足でコンビニを出た。 が、 「ちょっと待ってくれって」 コンビニを出てすぐの所で腕を掴まれ、少年に確保されてしまった。 意を決して振り向くと、そこには少し予想外な、困ったような顔をした少年がいた。 困ってるのはこっちなんですけど・・・ 悪い事考えてる様子じゃなさそうだし、止まってやるか。 そもそも、こんな学校の目の前で悪さなんかしないか。 「何か用ですか?」 「あ、いや・・・えーと・・・」 いざ応対してみれば、そわそわと落ち着かない様子。 「・・・用がないなら行くけど」 「いや!用はあるっ・・・」 私の前に掌を広げ、待てと言っているようだ。 「俺の、彼女になってほしい」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・は?」 誰が誰の? 私が君の?? てか君はだれ??? 「・・・君さ、何かの罰ゲームなの?悪いけどもう行くね」 相手は高校生のガキだ。 ため息混じりにそう告げて背を向け歩き出そうとしたとき、腕を捕まれた。 本日二度目だ。 「罰ゲームなんかじゃねぇよ。俺の彼女になれ」 なんなんだ。 しかもなんで命令口調になってんのよ。 はぁ、と一つ大きな溜め息をついてから少年に告げる。 「君いくつ?大人をからかわないの。高校生のガキんちょはお断りします」 「おねーさん、何歳?」 「22」 「5こしか変わんねーじゃん」 「・・・・・・5こも、でしょうが。第一、君の事なにも知らないし。君だって私の事・・・」 「洋一」 「え?」 「倉持、洋一。青道高校野球部2年」 にっと笑ってそう言う少年に、もう何を言っても無駄だと感じた。 「・・・苗字名前。君・・・倉持くんの彼女にはなれません。・・・けど、偶然会った時には悩みくらい聞いてやってもいい」 私の言葉を真顔で聞いていた倉持くんは、最後に満面の笑みでおう!と言った。 「そのうち彼女になってくれりゃいいよ」 なんだそりゃあ。 なにがおう!だ。 全然分かってないじゃない。 「よろしくな、名前!」 「馴れ馴れしい。名前さんと呼びなさい」 ヒャハ、と笑った時に覗いた八重歯や表情がやはりまだガキだな、と思わせる。 倉持洋一、青道高校二年生、野球部所属・・・ なんだか今日、奇妙な知り合いが一人、増えてしまったようだ。 はじまりの夜、それは春の風吹く 穏やかな夜だった。 ファーストコンタクト [back] |TOP| |