連載 | ナノ

指先でふれたロマンチック 04




「昨日楽しかった?」


朝、登校してきた私の席の隣に腰掛けるなりそう言ったのは御幸だ。
・・・ちくしょう。
今日も変わらずかっこいい。


「名前の希望通りカラオケ行ったらしいじゃん」
「うん。御幸がいないお蔭で超楽しかった!」
「てめ、言うじゃねぇか」


つん、と御幸と逆の方向に向いてみる。
我ながらまた可愛くないことを言ったもんだわ。
でも、昨日私たちよりあの子を取った仕返しだ。


「自分だって楽しんできたんでしょ」
「は?俺??」
「あかねちゃん。昨日御幸のこと待ってたじゃん」


聞きたくないけど聞いてしまう。
そんで御幸から楽しかったよ、なんて言葉を聞いて勝手に落ち込むんだから。
周りからしたら迷惑な話だ。
でも、気になったまま過ごすくらいならいっそ知りたいって思っちゃうんだ。



「別に、あいつの話聞いてすぐ寮帰った」
「一人で?」
「当たり前だろ。みんな居ねぇから超寂しかったー」
「ふーん」


意外。
あの後二人でどこか行ったりしたのかと思ってたのに。
上の空な返事を返すと、少し拗ねた御幸は横でひとつに束ねた私の髪をくい、と引っ張る。


「スルーですか、名前チャン?」
「え、わ、やめてよ」
「うるせ、ハゲちまえ」
「やだー!それだけはご勘弁をー」


ほんと勘弁してください。
髪に御幸が触れてると思っただけで信じられないくらい心拍数が上がる。
…まぁ、触れてるってゆうか引っ張られてる、の方が正しい気がするけど。



「ん?なんか名前の髪いい匂い」
「え!!?」
「名前ー」


横に座る御幸の顔が私の肩口にさっきより少し近付いたとき、ドアの方から私を呼ぶ声がした。

純さんだ。
手にはカバーの掛けられた漫画らしきものを持っている。
昨日約束した漫画だ!


「あ、ちょっと純さんのとこ行ってくるっ!」


どきどきを抑えて慌てて席を立つと、純さんのいる廊下まで急ぐ。
あと少しで心臓が止まるんじゃないかと思っていたから、このタイミングで呼び出してくれた純さんに感謝する。


「これ、昨日の漫画な」
「もう読んだんですか!?」
「帰ってすぐ読んだ。名前も早く読みたそうだったしな」


これで昼休みに読めるだろ、と言って笑った純さんはなんて素敵なお兄ちゃんなんだろう。
いい人すぎる。


「ありがとうございます!」
「おぉ。あ、授業中は読むなよ。没収されたらシメるぞ」
「わ、分かりました!」


純さんを見送って、借りた漫画を片手に上機嫌で席に戻るとさっきまで御幸しかいなかったそこに倉持が増えていた。


「お前ほんと純さんと仲いいな」
「まぁね!」
「ヒャハ!傍から見たら付き合ってるっぽくね?」
「昨日も送ってもらったし?」


倉持から聞いたのか、付け足すようにそう言った御幸の唇は少し尖んがっていた。
そんなに一人で寮に帰ったのが寂しかったのか。
いつもより二割増しのいじけっぷりだ。
御幸もほんとはみんなと遊びに行きたかったのかな、なんて考えて少し嬉しくなった。



「名前、なんでそんな髪ぐちゃぐちゃなんだ?」
「え!うそ!!」
「ほんとだ、みっともねぇなぁ」
「あんたが引っ張ったからでしょ!」
「はっはっは、そうだっけ?」
「その笑い方むかつくっ」


倉持に指摘されてバッグから鏡を取り出して見ると、確かに束ねた髪が崩れていた。
同時にさっきの御幸とのやり取りを思い出す。

髪を束ね直して悪態を吐きながらも、赤い顔を前髪で隠すのに必死にだった。








「ねぇ御幸」
「ん?」
「次のオフは、御幸も一緒に行こうね」


鏡をしまい込んでバッグの中を探る振りをしながらそう言えば、少しだけ目を大きくした御幸。
私の言葉がそんなに珍しかったんだろうか。
たまには私だって、素直になってもいいじゃない。

いつもみたいにおう、と笑ってくれた御幸の返事を聞いてまた、嬉しくなった。


ねぇ、もっともっと素直になれたら
御幸は私の気持ちに気付いてくれるのかな。

朝のホームルーム中さっき御幸がいい匂い、と言ってくれた髪の毛先を指で遊ばせながら、出来もしないことを考えた。




空想メーカー
(きょうも妄想だけがふくらんでいくよ)




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