連載 | ナノ

指先でふれたロマンチック 02



「名前、今日オフだぞ」


放課後、部室に入ってくるなりそう言った御幸。
私の手には掃除用具が握られている。


「知ってるよ」
「素で忘れてんのかと思った」
「・・・そこまで馬鹿じゃないんですけど。部室の掃除して帰ろうと思って」
「あぁ、汚ねぇもんな」
「あんたらだよ、汚してるのは」


へらへらと笑う御幸を余所に水を組んできたバケツとモップを壁に立て掛けて、埃っぽい部室の床を端っこから箒で掃き出す。


「こんな時じゃないと部室掃除なんて出来ないし。それに、練習が無いのってなんか拍子抜けしちゃうんだよね」
「・・・お前どんだけ部活馬鹿なんだよ」
「御幸に言われたくないし。自分だって練習しに来たくせに」
「まぁ」


私がいることなんてお構い無しにカチャカチャとベルトを外して着替え始める御幸。
いや、確かに兄がいる私にとって男の着替え姿なんぞ何の抵抗もないけどさ。
私にはあれだけ言うくせに、と少し不満に思ったり。

ここにいたのが私じゃなくて他の子だったら、堂々と着替えたりなんかしないくせに。
・・・とか思ったり。
途端に胸の中は黒いもやもやで一杯になって、御幸に背を向けた。

多分いま、ひどい顔してる。

私がせっせと掃除する振りをして必死にもやもやを掻き消そうとしてるなんて、御幸は微塵も気付いちゃいない。



着替え終わったのか、荷物をゴソゴソと漁る音を背中に聞きながら私は集めたゴミをちりとりに収める。
集めたゴミの殆どは、スパイクにくっついてグラウンドから連れてこられた土だった。




「名前」
「なぁに?」
「これやるよ」


振り向けば握った拳をこっちに差し出している御幸。
掌を出せということらしい。
何を渡されるのか怖ず怖ずと右手を差し出してみる。


「両手」


御幸の催促に慌てて左手も添えるようにして出すと、開かれた御幸の手からパラパラといくつかの小さなものが零れた。

私の両掌に転がったのは、いろんな色の、小さなキューブ型のキャンディー。


「頑張ってる名前チャンにご褒美♪」


そう言って笑う御幸の表情は、いつものような茶化したものじゃなくて。
珍しく優しい笑顔。
その表情ににまたどきりとさせられる。


「‥ありがとぅ」


たまに、御幸は私をどきどきさせる方法を知ってるんじゃないかと思ってしまう。
でもそんな筈ない。
ある訳がない。
御幸が私をどきどきさせようとする理由なんてどこにもないんだから。





「お疲れー・・・ぉ、名前、と御幸」
「あ、倉持だ」


少し雑に部室のドアを開けたのは倉持だった。
倉持も練習していくつもりらしく、バッグを床に落とすとまたもや私に構わず着替え始める。


「なぁ、お前らこの後暇?」


練習着のボタンを留めながら、倉持がこっちを向いた。


「暇!」
「自主トレ終わったら純さん達と遊び行かね?」
「行くー!私カラオケがいい」
「悪ぃ、俺パス。用事あんだ」


きゃっきゃとし出した私と倉持の空気を遮ったのは御幸のその言葉だった。


「ヒャハ、また女かよ?」
「いや、まぁ・・・女っちゃ女」
「ふーん、じゃ御幸は抜きでいこ。沢村たちも誘おうよ!」
「あ、おう」


御幸から貰ったキャンディーを制服のポケットに突っ込んで、倉持の腕を引っ張り部室を出た。





「なんか、悪ぃ・・・余計なこと聞いた」
「なにが?」


勘が鋭い倉持には、私の気持ちなんかとっくに気付かれているんだけど。
ばつが悪そうな顔をした倉持にそれでも強がってそう言ってみれば、倉持はそれ以上何も言わずにいてくれた。

徐にポケットに手を突っ込むと、キャンディーの包みがごそりと鳴る。
さっきまで私の胸を高鳴らせたそれは一瞬にして御幸を思い出してしまう、もやもやアイテムへと変わってしまった。


こんなこと、今までだって何度もあったじゃない。
繰り返されるアメとムチみたいな日々。
でも、
たまにくれる甘いアメよりも、ムチで喰らうダメージの方が遥かにでかい。
それでも御幸を諦められない私は、決してマゾなんかじゃないんだけども。



馬鹿なんだと思う。







自主トレを終えてみんなでグラウンドを出るとき。
グラウンド脇で御幸を待つあの子を見つけた。




残酷にじいろキャンディー
(甘いアメだけをちょうだいよ)




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