連載 | ナノ

指先でふれたロマンチック 01




ホームルームが終われば誰よりも真っ先に教室を飛び出して。
青道のロゴが入ったエナメルを掴んで階段を駆け降りる。
野球部員以外にこの学校でこのエナメルを持てる生徒は数人しかいない。
女子マネージャーだけなのだ。

学校中の人気者の野球部のエナメルを提げて歩けば、行き交う生徒の視線を感じることは多々。
そんな少しの優越感を感じるも、そんな事に浸っている時間は今はない。


そもそも私は、注目されたいから野球部に入部したんじゃない。

青道の近くに住んでる私は昔からここの野球部を見てきた。
苗字家は超がつく程の野球一家で、3歳上の兄も青道高校野球部出身だ。
その時からずっと、私はこの野球部でマネージャーになりたいと思ってた。




「お疲れ様っす!!」
「お疲れさま!二人早いねー」


部室のドアを思い切り開けると、もう着替えを済ませた沢村と春市くんがいた。
一番乗りだと思ったんだけどな。
私もロッカーにバッグを投げ込むと制服を脱ぎはじめる。


「え、ちょ、名前先輩!!?」
「ん?・・・あぁ、残念でした!」


急いで後ろを向いた春市くんと慌てて両手で顔を隠した沢村に、笑いながらスカートをぺらりと捲ってみせる。


「ハーフパンツもTシャツも制服の下に着てきたの」
「な、な、なんと心臓に悪い・・・」


着替え時間短縮の為に昼休み中に制服の下に仕込んできたのです。
そろりと指の隙間からこっちを覗く沢村を笑いながら、下に落としたスカートから足を抜くと後ろから誰かに頭を捕まれた。


「ぇ、ぇ?」
「名前、お前何回言ったら分かんだ?」
「ゃ、やや、御幸クン」
「御幸クン、じゃねーだろ。ここは部員の更衣室だっつってんの」
「だってマネージャーの更衣室遠いんだもん!脱いで着替えてるわけじゃないんだ・・・痛い痛いっ」


そう反論してみれば私の頭を掴む力は強くなって、流石の私もギブ。


「すいません。今日のとこは許してください。次からはちゃんとあっち行きます」
「・・・前も聞いたセリフだな」





一先ず今日のとこは許してもらって、御幸を撒くと部室を飛び出して冷蔵庫まで走る。
氷にドリンクに・・・
持ち切れるものを抱えてグラウンドに向かった。
ボールは梅と唯が出してくれるみたいだから後はー・・・




「持ってやるよ」


ぶつぶつと考えながら歩いていたら、ちょうど着替えを終えて部室から出てきた御幸と鉢合わせた。


「え、いーって」
「いーって」


私の右腕に提げられたジャグをひょいと奪うと、私の一歩前を歩きだす御幸。
途中グラウンドを横切る一年生に挨拶を返しながら歩いていると、ちらりと御幸が一度こっちを向いた。


「お前さ、あそこで着替えるのほんとやめとけよ」
「うーーん」
「意識する奴だっているだろ。・・・今日みたいに」
「まさか御幸も!?」
「はっはっは、ぜってーねぇ」
「・・・失礼ね」


前を向いて歩く御幸のおしりに道具の入ったカゴをぶつけてやる。
さっき頭掴んだお返しだ。
一番痛い角っこをぶつけてやるんだから。






「けど・・・心配はしてる」

「ぇ・・・」



顔だけ振り返ってそう言った御幸はにっと笑った。
午後の陽を浴びて少し茶色掛かった御幸の髪はきらきらとしている。




「・・・てかお前、以外と痛ぇぞ、ケツ」
「ざ、さまぁ!」


なんて悪態をついてみても。
私の顔は熱くて、心臓は怖いくらいにばくばくとしていた。


いつだって私はこいつの一言に一喜一憂させられるんだ。



ばかみゆき。

また、好きが大きくなっちゃったじゃん。




きらきらクレヨン
(きょうの色はきみしだい)




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