連載 | ナノ

君を手に入れたいと思った日 21




初めて名前と出会ったあの夜。
あの日と同じ香りが、今俺の腕の中にいる。

彼女の口から零れた言葉は、俺がずっと彼女に対して抱いていた気持ちと同じ意味を持つ、好きの言葉。


名前の体を抱きしめれば、その小さな細い腕はしっかりと俺の背中に回されて。
じんわりと名前の熱が伝わる。




「やべ、すげー嬉しい・・・」
「うん、私もだよ」


名前のその穏やかな声と服を掴む力に、胸がぎゅっと締め付けられる。
我ながら乙女の様な反応に少し笑えた。

名前のさらりとした髪を撫でながらひとつ、名前に話しておきたい事があったのを思い出す。




「なぁ・・・」
「ん・・」
「俺さ、まだ高校生だし・・・大学でも野球やると思う」


御幸みたいに特別才能があるなんて思ってねぇから。
プロの選手になる、なんてでかいことは言えねぇけど。
名前と出会って、考えたことがある。
それは今までただ漠然としか考えていなかった・・・いや、考えることすらしなかった自分の行く先。



「プロは無理だとしても、大学出て野球で食ってけるようになりたい」


自分の野球がどこまで通用するかなんて分からないけれど。
試してみたい。
そんで好きな野球で名前を養えるような男になりてぇ。


「俺が大人になるのはまだ先かもしんねぇ。それまで待っててくれるか?」
「待つ・・?」
「・・・あーなんだ、ほら!」


言い方が悪かったかもしれない。
少しだけ不安そうな表情を浮かべた名前に慌てて説明してやる。


「なんだかんだ言って俺はやっぱまだ一人前じゃねぇし、名前にしてやれることなんて限られてると思う」
「・・・うん」
「自分で稼いでるわけでもねぇしな・・・名前の隣にいてやることしか出来ないかもしんねぇ」


名前が今まで付き合ってきた男たちのように、名前に何かを買ってやったり、いろんなところに連れて行ってやることだって出来ない。
ましてや野球、野球で名前を一番に置いてやれないときだってあると思う。








「ばか洋一」
「って・・・」


びし、と名前の指が俺の額を弾く。
デコピンだ。
しかも結構痛ぇ。



「隣にいてくれるだけでも十分なの」
「名前・・・」
「将来の事をそうやってしっかり考えてるのはステキだと思う。それに・・・野球してる洋一は私も大好きだから」


前にも言ったじゃない、と笑ってくれた名前に胸を撫で下ろす。
名前を解ってやれるのは俺しかいないと思う半面、埋められない歳の差や、今はどう足掻いたって変えることのできない社会的地位に不安を感じる気持ちだって少なからず存在していた。



「でも、目指すならプロ野球選手くらい目標にしてよ!」


くるりと悪戯そうに瞳を動かしてそう言った名前に呆気に取られ、多分俺は間抜けな顔をしていたと思う。


「・・ヒャハっ!お前それハードル上げすぎ!」
「目標は高く!だよ」
「名前がそう言うなら・・・目指してやるよ」
「うん!」
「俺が一人前になるまで絶対逃げんなよ?」
「洋一こそ。・・他の子なんて見ないでね」
「最初っから見えてねー」


抱き合ったまま二人してくすくすと笑い合った。



『好き』を通り越したこの気持ちを表現する言葉はきっとひとつしかないのだけれど。

その言葉は簡単に口に出来るような言葉じゃなくて。
せめて俺が18になる時まで、あと少し、大事にしまっておこう。
きっと二人でいれば、時が過ぎるのなんてあっという間だと思うんだ。


途中で迷子になってしまわないように、この手は絶対に離してやらねぇ。
名前が笑うとき、泣くとき、その隣にはいつだって俺がいてやるんだ。






「名前、好きだ」




三度目の告白の返事は、頬にそっと触れた柔らかな唇だった。




愛してる、はあと少しさきに



back




TOP




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -