連載 | ナノ

君を手に入れたいと思った日 13




名前がいない。

試合前、確かにあのベンチに座ってたんだ。
試合中だって何度か確認した。

試合後、グラウンドの周りを歩き回ってみたがやっぱりいねぇ。


「倉持ぃ!テメェどこ行こうとしてんだ!!これ運びやがれ!」


げ。
校門の方まで探しに行こうかと足を踏み出した瞬間、後ろから純さんの声がした。


「おら、ひとつ持ってけ」
「・・・ス」


仕方ねぇ、終わったら連絡してみるか。
渋々、積み上げられた荷物を担ぎ、道具庫に向かう。




「倉持ー」


かったるそうにちんたら純さんと歩いていると、後ろから声を掛けられた。
この声は御幸だ。
振り向けばやはり御幸がこっちに向かって来ていた。


「さっき倉持の姉ちゃんらしい人に会ったんだけど」
「あ?」


何わけ分かんねーこと言ってんだこいつ。
らしいって何だ。


「これ渡してって頼まれた」
「・・・・・・」


差し出されたビニール袋を疑いながらも受け取り、中を覗いてみればそこにはペットボトルのスポーツドリンク。
と・・・プリンがひとつ。



・・・また、プリンかよ。

可笑しくなって少し口元が緩んだ。
名前はいつから俺の姉ちゃんになったんだ。
あのアホ。


「へー、やっぱあの人か」
「あぁ?」
「最近の倉持がキモい理由。やっと拝めたぜ」
「な、何の事だよ。つかキモくねぇし!」
「そうか。しらばっくれるわけだ?」


御幸はふーん、とかへーぇだとか言いながらニタニタとしている。


「すげぇ美人だったなー。俺もお友達になりてー」
「絶っ対ぇ会わせねぇ!」
「やっぱあの人か」
「・・・チッ」


くそ。最悪だ。
一番知られたくなかった奴にバレた。


「付き合ってんの?」
「・・・ちげぇよ」
「あんなキレイな人、倉持にゃ無理かもしんねーけど頑張れよー」
「うっせ」
「はっはっは、まぁ今度俺にも会わせろって」
「会わせねぇ!死ね!」


ニタニタ顔の御幸を蹴飛ばし、部室に戻る。
御幸にだけは知られたくなかった。
俺が恋をしているだなんて知れたら、コイツは絶対ぇネタにしてくるから嫌だったんだ。




練習後、部室で携帯電話を開くと名前から一通のメールが届いていた。
受信時間は試合が終わった直後だ。
着替え途中でまだ片腕にひっかかったままのアンダーシャツも気にせず、急いでメールを開封する。





『かっこよかったよ』


たったそれだけ。
絵文字も顔文字も何もない、たったそれだけの一言。
けどそれだけで、こんなにも喜ばされる。
そんでその度に思うんだ。



俺はやっぱり、名前が好きだ。







なのに。
このメールを境に名前からの連絡は途絶えてしまった。




いつもと同じ明日がくるって
信じてた




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