▼ 君を手に入れたいと思った日 13 名前がいない。 試合前、確かにあのベンチに座ってたんだ。 試合中だって何度か確認した。 試合後、グラウンドの周りを歩き回ってみたがやっぱりいねぇ。 「倉持ぃ!テメェどこ行こうとしてんだ!!これ運びやがれ!」 げ。 校門の方まで探しに行こうかと足を踏み出した瞬間、後ろから純さんの声がした。 「おら、ひとつ持ってけ」 「・・・ス」 仕方ねぇ、終わったら連絡してみるか。 渋々、積み上げられた荷物を担ぎ、道具庫に向かう。 「倉持ー」 かったるそうにちんたら純さんと歩いていると、後ろから声を掛けられた。 この声は御幸だ。 振り向けばやはり御幸がこっちに向かって来ていた。 「さっき倉持の姉ちゃんらしい人に会ったんだけど」 「あ?」 何わけ分かんねーこと言ってんだこいつ。 らしいって何だ。 「これ渡してって頼まれた」 「・・・・・・」 差し出されたビニール袋を疑いながらも受け取り、中を覗いてみればそこにはペットボトルのスポーツドリンク。 と・・・プリンがひとつ。 ・・・また、プリンかよ。 可笑しくなって少し口元が緩んだ。 名前はいつから俺の姉ちゃんになったんだ。 あのアホ。 「へー、やっぱあの人か」 「あぁ?」 「最近の倉持がキモい理由。やっと拝めたぜ」 「な、何の事だよ。つかキモくねぇし!」 「そうか。しらばっくれるわけだ?」 御幸はふーん、とかへーぇだとか言いながらニタニタとしている。 「すげぇ美人だったなー。俺もお友達になりてー」 「絶っ対ぇ会わせねぇ!」 「やっぱあの人か」 「・・・チッ」 くそ。最悪だ。 一番知られたくなかった奴にバレた。 「付き合ってんの?」 「・・・ちげぇよ」 「あんなキレイな人、倉持にゃ無理かもしんねーけど頑張れよー」 「うっせ」 「はっはっは、まぁ今度俺にも会わせろって」 「会わせねぇ!死ね!」 ニタニタ顔の御幸を蹴飛ばし、部室に戻る。 御幸にだけは知られたくなかった。 俺が恋をしているだなんて知れたら、コイツは絶対ぇネタにしてくるから嫌だったんだ。 練習後、部室で携帯電話を開くと名前から一通のメールが届いていた。 受信時間は試合が終わった直後だ。 着替え途中でまだ片腕にひっかかったままのアンダーシャツも気にせず、急いでメールを開封する。 『かっこよかったよ』 たったそれだけ。 絵文字も顔文字も何もない、たったそれだけの一言。 けどそれだけで、こんなにも喜ばされる。 そんでその度に思うんだ。 俺はやっぱり、名前が好きだ。 なのに。 このメールを境に名前からの連絡は途絶えてしまった。 いつもと同じ明日がくるって 信じてた [back] |TOP| |