連載 | ナノ

君を手に入れたいと思った日 11




まさか昨日の今日でまた名前に会えると思わなかった。

純さんのパシリでカロリーメイトとファンタを買いに行く羽目になった時は、クリス先輩と特訓に行った一年ピッチャー二人を恨んだが、今となっちゃ連れ出してってくれたクリス先輩に感謝。


あれ名前だよな?
メガネを掛けてる姿を見るのは初めてで、念のためメールを打ってみる。

お、ケータイ開いた。

携帯電話を確認してからきょろきょろとしている名前が漸く俺を見つけた。
手にはまたプリンを持っている。
ほんっと好きだな。


名前は仕事のときとは違う、リラックスした姿で店内をフラフラしている。
なんていうか、あのショートパンツは・・・
駄目だろ。
いや、むしろ全然有りなんだ。
だけどほら、今だって擦れ違ったおっさんが名前の太股を目で追ってやがる。
むかつく。見てんじゃねーよ。

名前より先に出てきたおっさんにガンをくれてやっていると、買い物を終えた名前がドアを押して出てきた。
お茶を手渡され、名前も隣に腰を降ろす。
何てことない事だが、それが自然な流れになっている事が嬉しかった。


足を出し過ぎだと言えば軽く冗談で流される。
笑い事じゃねぇぞ。
ほんとこいつはそういうとこに疎すぎる。


ごくごくとお茶を飲んでる名前の横顔を見るとどこかいつもと雰囲気が違う。
メガネのせいじゃなくて、もっと根本的な何か。
じっと横顔を眺めていると、それに気付いた名前がこっちを向いた。
・・・あ、そうかわかった。


「なに?」
「名前、今日化粧してねぇの?」
「え?あぁ・・・どっか行く予定も無かったから」
「へー・・・」
「全然顔ちげー、て思った?」
「は?全っ然変わんねぇじゃん。・・・何でそっち向いてんだよ」


化粧をしていなくても、白い肌も長い睫も何も変わらない。
変わっている事といえば、普段より幼く見える事くらいだ。
以外に童顔だったんだな。
むしろかなり良い。
隠すようにそっぽ向いた名前の顔を見たくて覗き込む。


「あんま見るなってば」


覗き込んだ先に見えた名前の顔は赤く、上目がちにこっちを見る。
目が合った瞬間、どくん、と心臓が跳ねた。



・・・やべぇ、かわいい



「そういや明日、練習試合なんでしょ・・・」


吸い込まれるように名前に近付く。
自然なピンク色の柔らかそうなその唇まであと数センチ。



ガッ..



「ぐっ・・・」
「させるかぁ!」
「ってー・・・舌噛んだ。何しやがる」
「それはこっちの台詞だろうがバカタレっ」


名前の言葉にはっとした。
そうだ。何やってんだ俺。
無意識だった。
名前のあんな表情を見て抑えられなくなったんだと思う。
キスとか・・・手だけは絶対出さねぇって決めてたのに・・・


「・・・わりぃ。つい・・・」



「まぁ・・・次は無いと思いなさい」


自己嫌悪に項垂れていると、立ち上がりこっちを向いた名前がそう言った。
その表情に少し安心する。





それから普通に会話をしてくれた名前に明日の練習試合に誘ってみたが、生憎明日は予定があるらしい。
気が向いたら来週行く、と言った。
気が向いたらなんて言いながら、名前は絶対来てくれるに違いない。




名前が試合を見に来てくれる。
そう考えただけで堪らなく嬉しくて、
来週の日曜がこんなにも待ち遠しくなるんだ。




そのベイビーフェイス、有効!



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