連載 | ナノ

君を手に入れたいと思った日 08



夜、練習が終わってからコンビニに飲物を買いに行った。
まぁ、一番の目的は名前に会うことだけど。

暫く待ってみたがいつも帰ってくる時間に名前が帰ってこないところを見ると飲み会かなんかか?
今日は金曜だしな。



一旦寮に戻ったものの、やっぱり気になって12時少し前に寮を抜け出した。
あー、こんなとき連絡先を知ってりゃこんなまどろっこしい思いしなくていいのに。


そんな事を考えながら角を曲がると、目の前に見慣れた後ろ姿を見つけた。
少し・・・いや、かなりふらふらと歩いている気がする。


「名前!?」


駆け寄って、ふわふわと歩くその腕を掴む。
振り向いたその顔はほんのり赤い。


「あ、倉持くんだー」


にへらと笑ったその顔を見てこりゃ相当酔ってるな、と確信した。
まぁ、それ以前にあの足どりを見れば誰もが分かると思うけど。


「酔っ払ってるだろ」
「いーや」
「嘘つけ。ふらふらじゃねぇか。こんな時間に酔っ払って女一人で歩くなんて危ねぇだろ!」


大丈夫だよ、なんて言う彼女に注意をして溜息を吐くと、ふらふらの名前の手首を掴んだまま歩きだす。


「送ってく・・・」
「あはは、倉持くんて心配性なんだねー」
「このまま帰せるわけねぇだろ」


当たり前だ。
こんな時間に好きな女を、しかもこんな状態で一人で帰せるわけがない。
名前は完全に酔っ払い扱いされてる事が不満らしく、拗ねたような顔でそっぽを向いていた。
静かな夜道に名前のヒールの足音だけが響く。


「あ・・・」


ふと思い出した。
今って名前に連絡先聞く絶好のタイミングじゃねぇか?
またこんな事があったとき連絡先が分かれば心配ねぇし。


「名前ケータイ出せ」
「けーたい?なんでー?」
「いいから」


名前は不思議そうな顔をしたけど、ゴソゴソとバッグの中から携帯電話を取り出して俺に差し出した。
ふたつ折の携帯電話を開き、操作してディスプレイに『登録完了』と表示されたのを確認するとまだ不思議そうにこっちを見てる名前に携帯電話を返す。


「赤外線しといた。今度から遅くなる時は必ず連絡しろ」
「なんで?」
「危なっかしいから送ってやる」
「ボディーガードみたいな?」
「だな。・・・つうか名前の家ってどれだよ」
「そこのグレーのやつ」
「へー・・・」


名前が指差した先には3階建のグレーのマンションがあった。
外壁はタイル張で、まだ新しそうな綺麗なマンションだ。
名前はくるりとこっちを向くと下から俺を見上げた。





「・・・上がってくー?」
「は・・・?」


とろんとした熱っぽい瞳に上目遣い、赤い頬に薄く開いた唇。
男を誘う条件ばっちりな名前の口からとんでもない発言が飛び出した。

俺だって男なわけで。
そういう欲望が無いわけじゃない。
一瞬ごくりと喉が鳴ったのがわかった。
けど、酔った勢いで、なんてまじで笑えねぇ。

くそ、この酔っ払い。
俺の気もしらないで。
つうか、相手が俺じゃなかたら即効で食われてるぞ、こいつ。


「なーんて「アホ!酔っ払ってるからって軽々しくそうゆう事言うんじゃねぇ!」
「あたっ」


名前のでこをぺし、と叩いてやると、腕を掴み言い聞かせた。


「他の男の前で絶対に言うなよ」
「言わないよ・・・てか冗談だよぅ」
「冗談でも言うなっつってんだよ!」
「むぅ・・・」
「・・・名前がこんな酒癖悪い奴だったとはな」
「今日はたまたま飲み過ぎただけ!」


わざとらしい大きな溜息を吐いてみれば、不満げに反論してくる。
酔いはさっきより醒めてきてるみたいだ。


「つうかよ・・・今度からやけ酒するくらいならその前に俺に連絡しろよ」
「なんでよ」
「名前の愚痴くらい、いくらでも聞いてやるっつの」


名前の事だ。
きっとまたなんかあったに違いない。
俺の目線の少し下にある頭に手を置き、さらさらとした髪を撫でてやると気持ちいいのか名前は少し目を細めた。






「部屋入るまで見てるから行けよ」
「ん・・・わかった」
「完全に部屋入るまで油断できねぇからな、酔っ払いは」
「酔っ払いじゃない!」
「ヒャハ!まだ否定すんのかよ」


ふん、とかなんとか言ってマンションの方へ歩いていった名前の足元は、相変わらず若干覚束ない。


「コケんなよ」
「コケないし!」



外階段を上がり、2階の部屋前でこっちを振り返った名前に軽く手をあげる。
名前は手を振り返すと玄関の鍵を開け、ゆっくり部屋の中に消えていった。


ガチャガチャ..


さて、無事送り届けたことだし、俺も帰るか。
小さく聞こえる施錠の音を確認してからマンションに背を向ける。

何言われるか分かんねぇから誰にも会わないようにしねぇと。
増子先輩はきっと深く突っ込んではこないでくれるだろうし、沢村のバカはもう爆睡してるだろうから心配ない。



「あ・・・」


ポケットに突っ込んだ手の指先に、携帯電話の感触を確認した。
取り出してアドレス帳を検索すると、苗字 名前の文字。
その文字を目にした瞬間、口元が緩むのが分かった。
誰かのアドレスを登録してこんなに嬉しいと思ったのは初めてかもしれない。

そのままメール画面を開き、カチカチとメールを作成する。
あの調子だと多分そのまま寝てるだろう。
明日にでも見てくれりゃいい。





『あんまり無理すんなよ。
 おやすみ!』


それだけを送信すると携帯を再びポケットに突っ込み、寮までの道のりを急いだ。





名前からメールの返事が届いたのは、翌日の夕方近くのことだった。




誘惑とアドレス



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