まじで別れる寸前


思わず黙ってしまった。実は俺、彼女はあやかの前に1人しかいたことがない。こんなナリだしノリも軽いから、よく遊んでると思われるけど、彼女はあやかが人生で2人目だ。童貞だって、あやかで卒業した。

しかしこれは俺のメンツに関わる。俺にだって男のプライドがあるし。もちろん経験=男らしいなんて思わないけど、男なら余裕を持って女の子に接したいだろう?

俺の沈黙から、あやかは真意を読みとることができなかった。

「答えられないよね、イルマだもん。所詮あたしは遊びだったんでしょ。わかってたし。…いいよ。別れる。いつ浮気されるかビクビクしてたし、あたしと別れてもイルマならすぐ新しい子見つかるでしょ? もしかしてもう目星つけてたりして」

目星って…。ちょいとあやかさん、君の目に俺は一体どう写ってるの? 3カ月近く付き合ったのに、あやかはずっと俺をそんなふうに見てたのかな。

「これで完全にさよならね。あたしは学校とバイトで忙しいし、イルマは派手な夜の街が好きだし、もう会わないかもね。…最後に一つだけいいかしら」

あやかが滅多に使わない女言葉を発したのに反応して、目線をあやかに向けた。

あやかはおもむろに目の前のコップを手にとり、まだ口をつけてないなみなみ入ったコーラを

バシャッ

「っ!」

俺にぶっかけた。

まさかあやかが、こんなことするなんて。人がたくさんいるファミレスのど真ん中で、コーラをぶっかけられるとは思わなかった。

「…コーラ」

思わず呟いた。

「今更気付いた? あたし、炭酸飲めないんだよね」

そうだよ。馬鹿だなぁ、俺。あやかはいつも紅茶系だったじゃん。炭酸が苦手だと直接言われたことはないが、あやかの好みには明らかにコーラは属していなかった。

「これですっきりした。さようなら」

呆然とする俺をそのままに、あやかは早急に席を立ち、そのまま店を出て行った。

周りの視線が痛い。ヒソヒソと話す人や、明らかに俺を指差して笑う人もいる。俺はそっと、水滴が滴る前髪を払った。

「…ベタベタする…」

やられた。これだから頭の回る人は。

あやかはわざわざ嫌いなコーラを選んだ。砂糖が大量に入った炭酸水。

「顔が甘ぇよ」

脱力した俺の視界に、テーブルに転がったストローが目に入った。

無意識に選んだ、赤いラインのストロー。

赤はあやかの好きな色だった。

 

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