まじで別れる9分前



よくあやかとデートで訪れるファミレスは、夜10時近くでも夏休みということがあって若者たちで割と賑わっていた。

その中のほぼ中心に位置する席に、あやかは不機嫌を隠しもしない表情で座っていた。

なんでだあやか。

別れ話にファミレスをチョイスした上、なんでど真ん中に座ってるんだ。

「ごめん。バイトで疲れてるのに呼び出して」

呼び出したのは俺じゃないがな。まあ、こういう時は下手に出ておいて損はないだろう。

「別に。座って」

うお、こわ。あやかさん、そんなにメニュー表見てどうしたの。バイト上がりだから空腹を抑えきれないのかい。

とりあえず席について、店員さんにドリンクバーを2つ頼む。

食い入るようにメニュー表を見てたあやかも、ドリンクバーだけ。食べてもいいんだよ。今日はなんぼでも奢ってあげるから。

「あやかは、何飲む?」

「コーラ」

……いつもなら「いーよいーよ、あたし行くから!」って言ってくれるのに。どうやら相当ご立腹のようだ。

ドリンクバーまで、1人で行き、あやかの分のコーラと、自分の分のアイスココアをコップに注ぐ。いつもならやる、2種類以上のドリンクを混ぜるなんてことは間違っても今はやらない。

ストローは無意識のうちに、赤いラインのものを選んでいた。

速やかに席に戻り、あやかの前にコップをおく。

「ありがとう」

「…どういたしまして」

何故だろう。お礼を言われて恐怖を覚えるなんて初めてだ。

あやかの正面に腰を下ろした途端、唐突にその口が開かれた。

「それで?」

「……えっと」

「なんであたしと別れたいの?」

普段のあやかも少々トリッキーな面があるが、今は噴火する前の火山みたいで気が気じゃない。

「…俺、これ以上あやかを好きになれない。俺に愛して欲しいっていう、あやかの気持ちに答えられない。満足させてあげられない」

あやかは伏せ目がちで視線が合わない。かくいう俺の視線もテーブルの端っこがお気に入りなのだが。

「あたしと付き合ってたのはなんで?」

あやかの声はあくまで淡々としていた。

「告られたときは、普通に可愛いと思ったし。付き合ってからも、あやかの良いところはたくさんあったし、俺を引っ張ってってくれるところとか新鮮だった。あやかはいい子だよ」

嘘はない。あやかは俺にないものを持っている。責任感が強く負けず嫌いなとことか、ちゃんと俺を叱ってくれるとことか。

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